「なにやってるの、ユニちゃん?」
「あ、セリオさぁん」
ユニちゃんは突然泣きついてきて
「私、赤点取っちゃったんです」
*
セリオ(偽)の話外伝2
「お勉強」
*
HMX-17uユニは勉強が出来ない。
つまりここでの「出来ない」とは「平均並に出来ない」ということ。
現代科学の粋を凝らした最新型ロボットのくせにと思われるかもしれないが、まあ彼女にも色々事情があるんだろう。
何にせよ。
赤点を取った彼女は、再試に向けて勉学に励んでいる。
なにせこの成績によってはつらいつらい補修が待っている。冬の校舎は寒い。
さて、そんな惨状を見かねた我らがセリオ(偽)嬢は人生の先達として彼女の勉強を見ることとした。
「それで、どこがわからないですか?」
「……どこがわからないか、わからないです」
むう。確かにどこが分からないか分かっているうちは本当に分らないとはいえない。
仕方なく、セリオ(偽)はユニの教科書を眺めてみた……しかし。
分からない。
(……あにゃ?)
思わず頭をひねる。
社会理科英語は基本的に覚えモノだから、年号なり公式なりを覚えるしかない。で、覚える気がなければおぼえやしない、というかそもそも学校生活などというものを行ったことの無い物としてはさっぱりである。かろうじて、歴史漫画から引用できるものはなんとかなったが。
国語。これは覚え+読解力。まあ、だからなんとかなる。しかし「この文章を書いているときの作者の心境」というのがあるが、個人的にリアルな意見としては「締め切りやばいなあ」が極めて多いと思うがどうか?
そして、数学。
これを見たときのセリオ(偽)の反応としては『何語デスか?』だった。そもそも家事一般用のセッティングの彼女。家計の計算は滅法速いが三角形の内角の和さえ知らない。まあ日常生活ではいらないでしょうけれど。
結論。
私にも分かりません。
「あの、セリオさん? どうかなされましたか?」
「え? あはははは……ちょっと待って!」
「はい」
目の前にはきょとんとした顔のユニちゃんがいる。いけない。悟られてはいけない。姉としての沽券にかかわる。落ち着け、落ち着け。大丈夫。自分のプロセッサはこれぐらいの計算簡単に出来るはずさ。ま、物を考えるのはプロセッサ上の人工人格だからじかに計算できるわけじゃないけど。そういう機能を特別につけるならともかく。あーも−サテライトサービス使っちゃおうかな? って、いけないいけない。あれも結構使用費かさむんだよね。なるべく節約しないと。……って、関係ないこと考えてる! いけないいけない今は目の前の問題にしゅ−ちゅ−! ああ、そういえば今日の晩御飯はなににしよーかな? って、ああもう!
そんな感じで思考が暴走しまくって目の前の問題なんか頭に入りやしねえセリオ(偽)。
真剣と書いてマジと読みそうな顔をした彼女を心配そうに見つめるユニ。
そんな膠着状態は、唐突に破られた。
「ただいまー、って二人ともなにしてるの?」
「あ、おかえりなさいませー」
「おかえりなさい」
「今、ユニちゃんの勉強を見ていたところです』
「見てもらっていたところです』
「へー」
靴を脱ぎ、部屋に上がってユニの教科書を覗き込む彼女らの主人。
「あー、懐かしいなー。やったやったこんなの」
「分かりますか?」
「ん。なんとかね」
そういって、問題を解いてみる。
「うん。結構忘れてないもんだね」
「……? これはどのようにして解くのですか?」
「ああ、これはね」
そうして、二人は勉強を始めた。
それを傍目で見ているセリオ(偽)。
その顔はどこか悔しそうでもある。
数日後。
ユニは再試を無事くぐり抜けることが出来た。教え方が良かったようだ。
そして一方。
「ふっふっふ」
「どうしたのですかセリオさん? そのようなぐるぐる眼鏡に「七生」とかかれた鉢巻なぞをお付けになられて」
「このまま終われはしないのです向上心あふるる私としては自分の欠点を修復し更なる進歩を目指すというかやはり勉強するからには頂点ですというわけで目指せ東大といった気分で幼いころの約束を大切にしつつ女子寮の管理人になってみてまあ色々あって三浪してみたりもしようという気分です」
「……お疲れになってます?」
「それは、もう」
そんな二人を見ながら、
『やっぱりAIは止まらないのかなあ』
とか思っている人もいた。
ま、あまり意味はないですけど。
結果。
セリオ(偽)は三日で勉強に飽きてゲームを始めました。
ユニもそれに追随しました。
……どうなることやら三学期。
(次回にケイゾク)