夏。
 小さな公園の、芝生の上。
 芝生にござを引き寝転がっている機械人形とその主人。
 さわさわと、暖かい風が吹く。

「あったかいですねー」
「そうだねぇ」

 時間が経ち、日が強くなる。

「あちぃですねー」
「そうだねぇ」

 二人はござを木陰まで持っていく。
 そこで、再び寝転がる。

「ここは涼しいですねー」
「そうだねぇ」

 すぅすぅと寝息を立て、二人は寝付く。
 
 主人、目を醒ます。
 太陽が移動し、自分はひなたへと出ている。
 ござを移動させようとして、ひっかかる。
 機械人形の場所はまだ日陰であり、彼女は眠っている。
 押してみる。動かない。
 強く押してみる。
 それでも動かない。
 …悩む。
 くすぐってみた。
 彼女は、びくっと跳ねる。その隙にござを引っ張る。
 彼女が状況を掴めないうちに、とてとてと移動。日陰にござを引く。
 状況把握。何か言ってやりたかったが、眠かったので大人しくござの上に移動。
 睡眠。

 音。
 異物の接近を眠りながらに感知した彼女は目を開くまでに異物の方向を感知し体を起こしながら速度と角度を計算し普通の生き物にはできやしない速度で自分の主人に衝突しようとしているそれを受け止める。
 サッカーボール。
 飛んできたと思わしき方向には、何人かの少年たち。
 危険が無いことを確認した彼女は、ボールを少年たちに投げかえす。
 少年たちは手を振っている。彼女も手を振る。
 と。
 主人にすこし草がかかっている。
 彼女は、それをぱっぱと払う。
 そこで、主人、目を醒ます。
 寝ぼけまなこのまま、サッカーをしている少年たちを見て言う。

「元気だねえ」
「そうですね」

 彼女は、そんな主人を見ている。

 夕方になる。
 涼しい風が吹き始める。
 彼女は寝転がったまま、同じく横で寝転がったままの主人に問う。

「夕ご飯、何がいいですかぁ?」
「おいしいもの」
「ほほう。言いましたね。では、思いっきり美味しいもの作っちゃいますよ家計無視して」
「…じゃあ、味噌汁と焼き魚」
「えらい庶民的ですね。豆腐もつけますか」
「うん」
「それじゃあ」

 二人、立ち上がり。

「おうちに帰りましょ」

 そして、二人は家路につく。
 

第一部 おしまい

戻る