昔、森の中の一軒家に、押しの弱いあかりパパと、性格の悪い志保ママ。
 そしてメイドロボのセリオとマルチが住んでいました。
 最初はセリゼルとマルチテルにしようという案もありましたが、なんか使徒みたいなのでやめました。
 4人は、森の中で静かにすごしていましたが、しかし……。
「ねえ志保、本当にやるの?」
「あったりまえでしょ! そーしないと話が進まないじゃない!」
「でも、あの二人大丈夫かなあ?」
「大丈夫よ。獅子は奥さんに多額の保険金をかけて千尋の谷に突き落とすっていうじゃない」
「それ違うと思う……。それに、それじゃ突き落とされるのは志保なんじゃ…」
「ええい、四の五の言わずにゴー!どうせこれで出番終りなんだし」

 ということで、あかりパパを丸め込んだ志保ママは、セリオとマルチとを森の中に置き去りにしました。
 何故? と聞かれても困りますが、もっと困ったのは二人です。
 もっとも、普段どおりのおすまし顔のセリオは、困ってんだかどうだか分かりませんが。

「はうー(涙)セリオさぁん、どうしましょう?」
「……困りましたね」

 ちっとも困っていない口調でセリオは言います。
 それもそのはず、実はセリオのサテライト・システムを使えば、家に帰る事ぐらい朝飯前です。ご飯食べませんが。
 しかし、聡明なセリオは、そんな事をしていたら話が進まないのは百も承知なので、あえて黙っていました。いい子です。
 セリオは、泣きじゃくっているマルチを慰め、

「……とにかく、少し歩いてみましょう。人里に出られるかもしれませんし、とりあえず雨露をしのげる場所を見つけた方が良いでしょう」
「はい。そうですね」

 こうして二人は歩き始めました。
 しばらく歩くうち、二人は奇妙な建物を発見しました。
 大きさ自体はいたって普通ですが、その家は屋根も煙突も窓も壁も何もかも、全部お菓子で出来ていたのです。

「うわぁ。セリオさん、すごいですよ」
「……腐敗具合が心配です」
「でも、私たちはロボットだからお菓子は食べられないんですよね」
「そうですね。他を当りましょう」

 と、二人が去ろうとしていたとき、

「ちょっと待てぇ!」

 家の中から、魔女浩之が表れました。
 会社をリストラされて仕方なく魔女をはじめ、幼い子供をさらって色々しようとしている、かなり問題のある人物です。

「なぁんか、ナレーションが気に食わねえなあ」
「あ、浩之さん、こんにちわ」
「……こんにちわ」
「おうっ……って普段どおりに挨拶している場合じゃねーな。どうだ二人とも、家に上がってかねーか?」
「あ、はい。お邪魔します」
「……お邪魔します」

 疑う事を知らないマルチは、素直に魔女浩之に着いていきました。セリオもそれに従います。
 魔女浩之はほくそえみ、何かしら配役にふに落ちないものを感じながらも、二人に眠り薬入りジュースを差し出しました。
 眠らせて、その間に閉じ込めてしまおうという算段です。
 二人に魔の手が迫ります。しかし。

「どうだ二人とも、ジュースでも飲んでかねーか?」
「あ、お心づかいはありがたいのですが……」
「……すみません。私たちはロボットなので、人間の飲み物は飲めないのです」
「あ、そうか、そうだったか。わりぃな」

 魔女浩之は、仕方なくジュースを下げようとします。

「あ、せっかくのジュースですし、どうぞ浩之さんが飲んで下さい」
「……そうしてください」
「え”?」

 二人は、澄んだ瞳で魔女浩之をみつめます。
 とても、眠り薬が入っているからこんなもん飲めねえぜ! とは言えません。
 魔女浩之は、観念して飲みました。それは、成人男子が十分意識を失えるほどの量でしたが、何とか意識を保つ事に成功しました。主人公の座は伊達じゃないようです。

「う、うむ……飲んだぞ」
「はい、美味しかったですか?」
「……大丈夫そうですね(ぼそり)」

 セリオはいつもどおりの冷静なまなざしでそんな事を言います。魔女浩之は、必死に意識を保ちながら、

「んじゃあ、もう暗くなってきたし、客室が開いてっから、そこに泊まってくか?」
「あ、はい。すみません。そうして下さると助かります」
「……助かります」

 魔女浩之は、二人を客室に案内しました。セリオとマルチは、客室に入ります。
 しかし、その時、客室の扉に鉄格子がかかりました。

「え? こ、これはどういうことでしょう?」
「……罠にはまったようですね、マルチさん」

 魔女浩之は勝ち誇った顔で、

「ふふん、そのとーり。おまえら二人は、俺の罠にはまったのさ!」
「あ、あう〜。ど、どうしましょうセリオさん」
「困りましたね」

 やっぱりセリオは困っているようには見えません。

「一体、どうして浩之さんがこんな事を?」
「ふふん、決まっているだろう。俺が魔女役だからさ!」
「浩之さんは男の方なのに魔女さんなんですか?」
「い、いーじゃねーかよそんくらい」
「……問題ありませんよ、マルチさん。中世ヨーロッパにおいて、『魔女狩り』の対象にあい、不当な疑いをかけられた方々は、男女問わずに『魔女』と呼ばれ、裁判にかけられたといいますから」
「ふうん、そうなんですかあ、セリオさんは物知りなんですね♪」
「そーなのか…まあ、これで問題ないだろ?」
「ちなみに、『魔女裁判』としては、水に沈めて浮かんだら魔女、
沈んでいたら人間というものがあったそうです。勿論魔女だったら処刑されます」
「……それ、どっちにしろ死んでねーか?」
「ほかには、全身に針を突き刺し、痛くない箇所があったら魔女、というのもあったそうですし、こし蓑に火をつけて、ダブルアナザーパラノイアを踊りきれたら魔女、というのもあったそうです」

 最後のはなんか違う気もしますが、セリオはそこまで言うと魔女浩之の方をちらりと見て、

「……お可哀相に……」
「……なんかむかつくな。ふふん、まあいいぜ。ともかくおまえらは捕まった訳だからな、覚悟しろよ」
「覚悟……ですか。一体、私たちに何をするんですか?」
「え?」

 考えていなかったようです。

「何って……まあ、色々だよ」
「はあ、色々ですか」
「……具体的には、どのような事を?」
「それは……な、内緒だっ」
「なんだか、浩之さん赤くなっています」
「……『色々』を具体的に想像してしまったんでしょう」
「やかましいわい。ともかく、そこからは脱出不可能なんだからな」

 魔女浩之がそういうと、セリオは鉄格子に近づき、こんこん、と叩きます。

「ん、無駄無駄。そんな細腕で壊せるようなしろもんじゃ…」
「……セリオナックル(左)」

 セリオの左腕が凄まじい勢いで発射され、爆発が起こります。
 もうもうと立ち込める煙の中で、みずからの左腕を回収したセリオは、ガシャン!  という音を立ててその腕を元に戻します。
 鉄格子は、完全に破壊されたようでした。

「な、なんだ? おまえそんなこと出来たのか? 汚ねーぞ! この鉄格子は網走刑務所でも使われているという由緒正しき代物なのに!」

 セリオは極めて冷静に、

「特殊チタンですから」
「……そーゆーもんだいか? って、あの? なんで、右腕を俺に向けているんです? ちょっと、そんなポーズなんか決めて! もしかして、その鉄格子を破壊できるようなパンチで俺を殴るつもりか!?  いくらなんでもそこまでしなくても良いん…」
「……セリオナックル(右)」
「ぼぶっ!」

 セリオナックル(右)をまともに食らった魔女浩之。が、なんと彼は立ち上がりました。
 やはりμガンダムも伊達じゃないようです。

「ふ、そ、そんなパンチ、蚊が刺したほどにも効か……」
「……セリオナックル(両手)」

 悪は滅びました。

 ぱちぱちと、お菓子の家が火の粉を撒き散らしています。
 悪を根元から絶つため、二人は家に火をつけたのです。

「戦いの後は、いつもむなしいですね、セリオさん」
「……そうですね」

 二人のかばんの中は、魔女浩之の蓄えていたお金がぎっしりです。汚れていても金は金です。

「これからどうしましょうか」
「とりあえず、街へ。これだけお金があれば、しばらくは大丈夫でしょう」
「そうですね」

 そうして、二人は旅に出ました。
 渡る世間は鬼ばかり、色々と辛い事が二人を待っているでしょう。
 しかし、二人なら何とかなるでしょう。
 なんたって、セリオがついているのですから。

 めでたしめでたし♪

魔女浩之「……ひとつもめでたくねーぞ」
あかりパパ「わたしたち、本当に出番少なかったね」
志保ママ「だいたい、私が主役じゃない時点で間違っているのよ」
マルチ「あう〜。浩之さん、ごめんなさーい」
セリオ「……問題ありません」
他全員『あるってば!』


あとがき

授業中暇だったから書いていた話(汗)
 いやそれはともかく、同時ToHeartにどハマリ状態であった私は(今もそうだとも言う)一種の思考実験で、キャラクターを使った童話物、というのを考えてみました。

 で、とりあえず考えてみたのが、セリオとマルチを使ってヘンゼルとグレーテルをやるというもの。

 しかし、これは書くのが本当に楽でした。こんなに楽に書けたのってはじめてでしたよ。
 ほとんど最初に書いた下書きのまま(アルプス伝説ネタを追加したりもしましたが)
 個人的ツボはセリオナックルですかね。

 童話物としては、他にシンデレラや赤ずきんを構想していたりもしました。
 読んでみたいと思ってくれる方がいらっしゃいましたら、掲示板の方へお願いします。

 ・・・しっかし、こんな馬鹿な話が許されるのかしら?

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