昔、あるところに画家志望(但し貧乏)の綾香と、その愛犬のセリオ(犬)が住んでいました。
 最初はアロとセリラッシュにしようという案も有りましたが、訳わからないので止めました。
 二人は幸せに暮らしていましたが、しかし……。

「ところで綾香お嬢様」
「なに? セリオ」
「フランダースの犬とは、どのようなお話なのでしょうか?」
「もう疲れる話」
「……は?」
「いや、よく「懐かしのアニメ特集♪」とかで最終回だけは見るんだけど、そこに至るまでの過程とかは知らないのよね、私。セリオこそ、サテライトサービスとか使って判らないの?」
「すみません、ただいまテレホタイムで回線が大変込み合っています」
「……おっそいプロバイダじゃないんだから……それにしても」

 綾香は、セリオ(犬)の格好を見ます。
 犬のつけ耳、つけしっぽ。ちゃんと犬の足の形をした手袋&足袋もはいています。肉球だってついてます。ぷにぷに。

「その愉快な格好は何?」
「犬です。わんわん」
「それは判らないでもないけど……」
「ぺろ」
「きゃっ! セリオいきなり何するのっ?」
「スキンシップです。犬の」
「だからって、いきなり顔なめないでちょうだい」

 ちょっとどぎまぎしてしまった綾香は、いつまでも雑談している場合ではないことに気付きました。

「と、とにかく始めましょう!」

 綾香は台本を見ます。
 そこには、こう書かれていました。

 *前回までのあらすじ。
 ぬれぎぬを着せられた綾香は、教会で死にかけていました。

「……これでいいのかしら?」
「おおむね問題ないものと思われます」

 何かしら納得いかないものも、綾香は教会のセットの中に入っていきました。

「これが、ずっと見たかった『最強格闘技の科学』……」

 死にかけた綾香は、そこに置かれていた一冊の本を見ています。
 その側には、セリオ(犬)が付き従います。

「セリオ……もう疲れたわ……」

 綾香は、そっと目を閉じます。
 それを見ながら、セリオ(犬)は考えます。

(……綾香お嬢様の体調は極めて危険なレベルに達しています。
 栄養失調、睡眠不足、過労などが原因となっていますが、さし当っての最大の問題は、気温の低さによる体温の低下。
 それを解決するためには、綾香お嬢様を暖める必要があります……)

 自分の出した結論が満足できるものであることを確認したセリオ(犬)は、行動を開始しました。

(……あれ? もうそろそろ天使役の人が降りてきて、教会の上までワイヤーで引っ張ってくれるはずなんだけど……)

 そう思う綾香ですが、そのような気配は一切しません。
 代わりにがさごさと、まるで衣擦れのような音が聞こえます。

(……衣擦れ?)

 綾香は、そっと目を開きます。
 そこには、上着をはだけたあられもない格好のセリオ(犬)がいました。しかしながら犬セットは装着したままです。

「セッ、セリオ! あなたなんて格好してるの!?」
「半脱ぎです」
「いや確かに全部脱いではいないはねある意味その方がドキドキかもってそうじゃなくて!」
「古来より、人が低体温症に陥った場合には、人肌で暖めるのが有効だとサテライトサービスにも有ります」
「さっき回線が込んでるって言ってたじゃないのー!」
「愛の力です」
「訳わかんないわよっ。だいたいそんなコトしたらあらぬ噂が立っちゃうでしょただでさえ世間には私たちのことをそーゆー目で見ている連中が結構いるってーのに!」
「安心して下さい綾香お嬢様」
「何を?」
「ご心配されなくても、お嬢様はちゃんと
戻る