なつかのん:さん

 私は、学校の、屋上の入り口の前にいた。
 学校の中は、涼しい。
 でも、外は暑そう。
 涼しいのは嫌いじゃない。
 あと、くるのがわかっている人を待つのも。
 もういっかい、外を見てみる。
 やっぱり、暑そう。
 大丈夫、かな?

「舞ー」

 声が聞こえた。
 階段の下のほうを向くと、私の、大好きな人がこっちに向かって走っていた。
 その姿を見ていると、なんだかうれしい。
 でも。

「佐祐理」

 私は、駆け寄ってくるその人に、佐祐理に言う。

「廊下を走ってはいけない」
「あ、そうですねー。ごめんなさい」

 そう言って、佐祐理は走るのをやめて、歩いてこっちにくる。

「こんにちわ。舞」
「……こんにちわ。佐祐理」

 挨拶を済ませると、佐祐理は手に持つビニール袋を私に見せる。

「今日は、お土産があるんですよー」
「……何?」
「アイスクリームです。舞は、アイスクリーム好きですか?」
「……嫌いじゃない」

 また言ってしまった。
 ほんとは、好きなんだけど。
 『好き』って言葉は……苦手だ。
 照れるから。

「舞? どうかしましたか?」
「あ……なんでもない」
「えっと、それで、舞はどっちがいいですか?」

 ぼーとしている間に、佐祐理に何か聞かれたらしい。
 どうしよう。
 どっちか、って聞いてる。
 それなら。

「私は……佐祐理といっしょがいい」
「ふぇ?」

 私がそう言うと、佐祐理はちょっと困った顔をした。

「ごめんなさい、実は、バニラとストロベリーを1個ずつしか買って来なかったんです」
「え?」

 あ。
 佐祐理は、アイスの種類を聞いていたんだ。
 どっちがいいかって。
 話を聞いていなくて、佐祐理に悲しい思いをさせてしまった。

「同じのを二つ買ってくればよかったですね」
「……佐祐理、ごめんなさい」
「あははー。舞が謝る事無いですよー……そうだ、舞」

 佐祐理は、何か思いついたみたいだ。

「この二つを、はんぶんこにしましょう。そうすれば、佐祐理も、舞も、同じ物が食べられます」
「……それでいい」

 私がそう言うと、佐祐理はビニール袋からアイスクリームのカップを取り出す。
 やっぱり、佐祐理は頭がいいと思う。
 佐祐理に木で出来たスプーンを渡してもらう。
 佐祐理はバニラの方のアイスをまんなかでわけて、その片方をひとすくいして、私のほうに運ぶ。

「はい。舞。あーんして」
「……自分で食べられる」

 本当はちょっとたべさせてもらいたかったけど、さすがにちょっと恥ずかしかった。
 すると。

(じゃあ、わたしがもらうね)

 そんな声が……私たちにしか聞こえないその声がして。
 ぱくっ。
 と、佐祐理が持っているスプーンからアイスが消えた。

「ふぇ?」
「……まい」

 佐祐理は不思議そうな顔をして、

「まいさんが来てるんですか?」
「……来てる」
「まいさんまいさんまいさん、いますか?」
(いるよ)

 佐祐理にはまいは見えないけど、言葉はなんとなく伝わるらしい。
 それでも、すごい。
 それは他の人にはできないこと。

 まい。
 その名前は、佐祐理と私とで決めた。
 私の、力のかけら。
 佐祐理のおかげで、話し合うことが出来るようになった、もう一人の私。
 まだ一つには戻れないし、もしかしたらずっとこのままかもしれないけど、でもそれでもいいかもしれない。
 ただ。

(おいしかったよ、舞。舞も食べさせてもらえば?)
「……いい」

 まいは、ちょっと性格がヘン。
 誰に似たんだろう?

(そういえば)
「……どうかした?」
「ふえ?」

 まいは自分の頬に手を当てて、

(誰か、校舎の中に入って来たみたいだよ)
「……そう」
「あや。そうなんですか」

 佐祐理が、ちょっと失敗したような顔をする。
 でも、別に佐祐理が悪いわけじゃない。

 この子達に会いに来るなら、校舎に誰もいない日のほうがいいんじゃないですか? と言って、その日を調べてくれたのは佐祐理だ。
 もう学校を卒業した私達が、校舎に入っても誰にも怒られないようにしてくれたのも佐祐理だ。
 どうせ来るなら涼しい方がいいと、学校の上層部に圧力をかけてわざわざ夏休みに入ってから校舎にクーラーを取り付けるよう取り計らってくれたのも佐祐理だ。
 そのときは知らなかったけど、私が夜の校舎でこの子達と戦っていたとき警備員やセキュリティ会社に色んな事をして問題があまり明るみに出ないようにしてくれたのも佐祐理だという。
 そのことで御礼を言おうとすると、佐祐理は、

「いえいえー佐祐理は何もしてませんよー。
 ……舞、権力って素敵だと思いませんか?」

 て言う。だから私は、

「……思う」

 て言う。
 よくわからないけど、佐祐理が素敵だというんだから、きっと素敵なものなんだろう。
 でも、そういう時の佐祐理の顔、ちょっとダーク。

 それはそれとして、だから、今校舎に誰か入ってきてしまっていても、それは佐祐理のせいじゃない。

「……誰?」
(んーわかんない。ほら、私以外の子達は、そのなんてゆうか)
「ほえ?」
(ちょっとバカだから)

 まい、自分の分身達に対してちょっと辛辣。

「どうしましょうか。舞?」
「……どうしよう?」
(ほっとく? 別に害は無いみたいだけど)
「うーん……」

 確かに、誰か入ってきたとしても、私達がいるこの屋上前までは来ないだろうし、もし来ても別に問題は無い。
 ただ……普通の人達の中にも、この子達のことをなんとなく感じてしまう人もいる。
 もし入って来たのがそう言う人だったら、びっくりさせてしまうかもしれない。

「……やっぱり行く」
「舞が行くなら私も行きますー」
(あ、まいもまいもー)
「はい、まいさんも一緒に行きましょう」

 皆で行くことになった。
 多分、なんでも無いと思うんだけど。

「あぅーっ」

 あたしはそう一声立てながら、何回か来たこともあるがっこうの中を歩いていた。
 その肩には、にっしゃびょうでふらふらになった美汐がいる。

「……美汐、重いー」
「そう、ですか?」

 あ。
 ひとりりごとのつもりだったのに、美汐に聞こえちゃった。

「え? ううんううん。うそうそ、全然そんなこと無いよっ」
「そうですか……」

 美汐は納得したみたい。
 ふー。びっくりした。
 うかつなことを美汐に聞かれた日には、あとでどんな目にあうかわからないからね。
 と、それにしても。

「ねえ美汐。保健室ってどっち?」
「そこの……道を……まっすぐ」

 て言って、廊下を指差してくれるんだけど、その指はふらふらしていてどっちなのかよくわからない。
 大丈夫なのかな?
 とっても、心配。

「美汐、大丈夫?」
「ええ……大丈夫です」
「でも、顔色悪いよ?」

 美汐はつらそう。
 ときどき下を向いたり、ちいさくため息をついたりする。
 ほんとうに、大丈夫なのかな?
 なんだか、あたしも泣きそうになる。
 でもがまん。
 祐一に、美汐のことを任されたんだから。

 がっこうについて、あたしは美汐を校舎の中の保健室に、祐一とあゆさんは、名雪のところに行って、夏バテ用の薬(秋子さんがつくったらしい)とかスポーツドリンクとかをもらいに言った。
 保健室の中にも薬はあるかもしれないけど、夏休み中で保健の先生はいないかもしれないし、薬の入っている棚にはかぎが書けてあるかも知らないから、と祐一は言っていた。

 そういうことで、私は美汐と一緒に校舎の中にいる。
 
 

「……そこです」
「え?」

 と、美汐が一つの部屋を指差す。
 そこには確かに「保健室」と書かれたプレートがつるされていた。

「ここでいいの?」
「はい」
「じゃ、開けてみるね」

 横開きのドアに力をかけ、開こうとする。
 でも、ドアはびくともしない。

「……あう。鍵がかかってるみたい」
「……そのようですね」

 がっくりだ。せっかく見つけたのに。
 仕方なく、あたし達は廊下の埃を払って、そこに座り込む。

「ここで、祐一待ってよ」
「はい。そうですね」

 校舎の中は冷房がきいていて、ひんやりとしている。
 涼しいから、美汐も早くよくなってくれるかもしれない。

「ここは涼しいね」
「冷房の効かせすぎは体に悪いですよ」
「そ、そーだね」

 美汐はふらふらになりながらも、普段どおりの口調で喋ってくれる。
 なんだか、ちょっとだけ元気になってきたみたいだ。

「祐一どれくらいで来るかな?」
「運動部の部活棟は、それほど遠くありませんから、それほどかからないと思います」
「そうなんだ」

 それじゃ、ちょっと待ってれば来てくれるかな?
 それまで、美汐とお話していよう。

「美汐は、今はこの学校の二年生なんだよね」
「ええ。そうです」
「真琴も来年からこの学校に通うから、1年だけだけど、一緒に行けるね」
「そうですね。楽しみです」

 あたしが学校に行くためには、なんだか色々あったらしいけど、そういうのはぜんぶ秋子さんがやってくれた。
 やっぱり、秋子さんてすごい。

「でも、祐一と名雪は卒業しちゃうんだよね」
「……残念ですね」

 まったく。なんで二人とも、もう1年手加減して生まれなかったんだろう。
 りゅーねんとかいうのをすれば一緒に行けるらしいんだけど。

「りゅーねんして、っていうと、祐一怒るの。ひどいよね」
「それは……確かに怒られるかもしれません」

 そうなんだ。
 そんな風に、私達がお話をしていた、そのとき。
 あたしは、見た。

 廊下の向こう側にいる、それを。
 

(……あ)

 私たちが階段を降りていくとき、まいが小さく声をあげた。

「……どうしたの?」
「どうかしましたかー」
(見つかっちゃった)
「ふえ?」
(見張ってるように頼んでた子が、どうも見つかっちゃったみたいなの)
「……見つかった?」

 見つかった、とまいは言った。
 気付かれた、じゃない。

「その人は、まいさんたちが見える人なんですかー」
(うん。そーみたい)
「それは、すごいですねー」
(うん。すごい)

 すごいけど、ちょっと困る。

「びっくりさせちゃいけない。急ごう」
「あ、舞、廊下を走っちゃいけませんよー」
「……緊急事態」

 階段を駆け下り、下に向かう。
 下にいた他の『私たち』に案内されて、その場所へと向かう。
 その場所にいたのは―。

「あ、あぅーっ! あなたなによぅっ! 美汐に変なコトしたら、ただじゃ置かないからねっ」

 と、すごんでいるオレンジ色の髪の女の子と。

「真琴? どうかしたのですか? 暑いからといって、幻覚を見るようではいけませんよ」

 と、廊下に座り込んで、なんとなく焦点のあってない目でその子を見ている女の子。
 すごんでいる方の女の子には、見覚えがある。
 たしか。
 祐一と夜の学校に行っていたとき、一度会った事がある。

「……きつねさん」

 私は、ぽつりとそう言う。
 小さな声だったけど、その子には聞こえたらしい。

「え? あ、えっと……あーっ!」

 その子は私を右手の人差し指で指差し、余った方の手をぶんぶんと振り回し、

「きょーぼーおんなー!」
「……」

 ひどいことを言う。

「なんであんたがここに? ……あ、そーか、さてはこいつはあなたの手先ねっ」
「……手先じゃない」
「ごまかされないわよっ。こいつをとっとと下げるならよし、そうじゃなきゃ、真琴のものみ流防衛術がさくれつするんだからねっ!」

 と言って、私に向かって右ジャブを数度しゅっしゅ。
 でも、その動きはどうみてもへっぽこだし、よく見ると足も震えている。

「……怖がらなくてもいい」
「怖がってなんか、ないわよぅっ!」

 でも足はがたがた。
 どうしたら、安心してもらえるだろう?
 とりあえず、私が敵じゃないのをわかってもらうために、両手を上げて近づいていく。

「な、何の真似っ」
「非暴力非服従」

 ガンジーさんの言葉だ。

「……ひ、ひぼーよくひふくじゅー?
 まさか、その構えから繰り出す必殺技の名前? や、殺る気ねっ」
「……?」

 なんか勘違いされてる気もする。
 ともかく、私はずんずん近づいていく。

「あ、あぅっ。そ、それ以上近づいたら……そう、美汐がただじゃ済まさないんだからねっ」
「……何故私?」
「じゃあ、美汐をただじゃ済まないんだからねっ」
「……だから何故私?」
「美汐、口裏合わせなきゃダメだよ。これはこうどなせいじてきてくにっくってやつなんだから」
「……それは、何か違うような気がするのですけど」

 女の子は、もう一人の女の子と何かお話をしている。なんだか楽しそう。
 私は、その、もう一人のほうの女の子を見る。
 じーっと見る。

「……たぬきさん?」
「違います」

 違ったみたい。
 それはともかく……その子は、よく見るとなんだか辛そうにしている。

「……大丈夫?」
「え?」
「あぅ?」
「その子、病気?」

 病気。
 病気の人を見ると、悲しいことばかり思い出す。
 だから、元気になってほしい。

「もうすぐ佐祐理とまいが来る。それまで我慢」

 佐祐理は簡単な薬なら常備しているし、まいには病気とかけがとかを治す力がある。
 だから、二人が来てくれればへいき。

「さゆり? まい? ま、まさか、あなた他に仲間がいるの? ひ、ひきょうよぅっ」
「?」

 なのに、きつねさんのほうの女の子は手足をばたばたさせている。
 なにか、悪いことを言っただろうか。
 そのとき。

「舞ー」
(舞ー)

 後ろの方で二人の声が聞こえた。
 佐祐理とまいだ。

「こっち」
「ふぇー。いきなり走り出すから、びっくりしちゃいましたよ」
「ごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫です……と、こちらの方々は?」
「きつねさんとたぬきさん」
「はい?」

 あ、たぬきさんは違ったんだっけ。
 そう言えば、二人とも名前知らない。

「川澄舞」
「え? 何言ってるのようっ!」
「私の名前。川澄舞。あなた達は?」
「え、あ、あぅ?」
「天野。天野美汐です。川澄先輩」
「美汐知ってるの?」
「ええ……卒業した川澄先輩と倉田先輩といえば、私でも知っているくらい有名でしたから」

 有名だったんだ。
 知らなかった。

「わかった。始めまして天野さん」
「美汐、でいいです。川澄先輩」
「わかった。美汐さん。私も舞でいい」
「わかりました。舞先輩」

 こっちの子は物分りがいいみたい。

「あ、あ、あー! 美汐が裏切ったー!」
「人聞きの悪い……せめて、戦略的に優位な方についた、と」
「よくわかんないけど多分同じー!」

 こっちの子は物分り悪いみたい。
 そうこうしていると、佐祐理もこっちにやってきて。

「始めまして、倉田佐祐理と言います」

 と言って、ぺこりと挨拶。

「始めまして、倉田先輩」
「佐祐理も佐祐理でいいですよー」

 挨拶をしている。なんだか仲良くなれそうな雰囲気だ。
 でも、きつねさんのほうの子はまだ怖い顔。
 どうしたらいいだろう。
 じっと顔を見る。
 見る 
 うずうず。
 なんだかうずうずしてきた。

「わっ、なにするのようっ」
「なでなで」
「なにようっ、また子供扱いする気?」

 あ。
 じっと顔を見てたら、なんだか頭をなでたくなってしまった。
 可愛い。

「真琴……この人達は、悪い人達ではありませんよ」
「え? そーかな? でもそんなの連れてるし……でも、美汐が言うんなら、きっといい人たちなんだよね」
「そうですよ……さ、真琴もご挨拶しましょう」

 美汐さんはきつねさん……真琴をあやしている。
 なんだかお母さんみたい。

「あ、あぅ……はじめまして、沢渡真琴です」
「はじめまして。倉田佐祐理です」
「舞。川澄舞」

 そうして、みんな挨拶を終える。
 ……いや。
 真琴は、あの子達が見える。
 それなら。
 まいたちも紹介しよう。
 あの子達は、ずっと自分のことをわかってくれる人のことを待っていたのだから。

「……まだ、紹介したい人がいる」
「え? 舞、一体誰ですか?」
「まい」
「あ、そうですね。まいさんもご紹介しましょう」
「「?」」

 二人の顔にクエッションマーク。

「舞先輩は舞先輩ですよね?」
「舞は舞じゃないの?」
「……そう。でも違う。私は舞で紹介するのはまい」
「「?????」」

 初心者にはちょっと難しいかもしれない。

「イントネーションが微妙に違う。舞は微妙に漢字っぽく。まいは微妙にひらがなっぽく」
「馴れると自然に使い分けられるようになりますよ」
「……わかんないよぅ」
「そのうち馴れる。大丈夫」

 まだ二人とも名前のことで戸惑っている。修行が足らない。
 ともあれ、私はまいを呼ぼうと後ろを見る。
 まいは少し離れた場所で立ち尽くしている。
 どうしたんだろう。

「……まい?」

 呼んでみる。
 返事はない。

「まい!」

 すこし強めに。
 でも、返事はない。
 本当に、どうしたんだろう?
 私が近づいてみようとすると、まいは自分からこっちに来た。

「……どうしたの?」
「ふぇ?」

 様子が変なことに気付いた佐祐理たちもこっちを見る。
 まいはつかつかと歩き、私の横を通りすぎる。
 そのとき、呟く声が聞こえた。

「……どうして?」

 と。
 どう言う意味だろう?
 まいは私の分身であり私自身でもあるけど、考えていることは完全にはわからない。
 別々にいる時間が長すぎたんだ。

「まい、どうした?」

 私の言葉には答えず、まいはまっすぐに、真琴のところへと向かう。
 そして、真琴を見据える。

「あ、あぅ……」
「真琴? 舞先輩? あの、一体何が?」
「舞、まいさんが来てるん、ですよね」
「……うん。でも、様子がおかしい」

 まいが見えない佐祐理と美汐は、二人とも不安そうにしている。
 そして、まいが見える(らしい)真琴は、見つめられて戸惑っている。

「まい……」

 私の声も届かない。

「どうして、この人、祐一のにおいがするの?」
「え……」

 まいの呟き。

「それは……えっと、真琴が、祐一と一緒に暮らしてるからだと思うけど」

 真琴の答え。

「祐一は、あなたを選んだの……」

 まいの言葉。
 そう。
 祐一は。
 10年ぶりに会えた、あの日の少年は。
 また、私達の前から去っていったんだ。

「……どうして」

 まいはもう一度呟く。
 みし。

「どうして」

 もう一度。
 みし。
 軋む音。
 ガラスが歪んでいる。
 悲しくて泣く子供のように。
 まいは、その力を解き放とうとしている。

「どうしてっ!」

 叫ぶ。
 空気が震え、叫び、揺れる。
 強い風が吹いたかのように、みんなの服がばたばたとたなびく。
 
 だめ。
 だめだよ。
 もう、そんなことをしちゃ、いけないんだ。

 私はとっさにまいに駆けより、その体を抱きしめる。
 でも、私では「私の力そのもの」であるまいをとめることは出来ない。
 だから。
 私は、後ろを振り向く。
 そこには私の大好きな人。
 会ったばかりだけど、友達になれそうな二人。
 うん。
 きっと大丈夫。
 だから。

「……あとは、任せた」
 

 >続く