注)このSSは「君が望む永遠」体験版終了段階で書かれたものであり、本編とはひょっとしたら食い違う部分が出てくるかもしれません。つーか、本編こんなんだったら私も嫌です。
あと、ごっつネタバレありなんで出来れば体験版終わらせてからの方がよいと思います。燃えペンも。
この男の名は鳴海孝之!
最近ファミレスのバイトとのかけもちでこの某エロゲーメイカーでアルバイトしているフリーターである!
その鳴海が、シナリオライターである先輩に作品を読んでもらっていた!
「いかがです先輩!」
「……」
「主人公が遙に告白されてハッピーエンドの話です!」
自信ありげに話しかける鳴海。
しかし、先輩の表情は硬い。
「はじめのすべりだしが退屈だ……読者に飛ばされるぞ!」
「はあ」
「このラスト……告白されてOKするところを……
起承転結のおわりにではなく、起・承にもってきたほうがいい!」
その先輩のアドバイスに対し、鳴海は反発する。
「でも、そうしたら話がすぐにおわっちゃう……」
「この程度のインパクトで、話を終わらせられると思うな!」
驚愕する鳴海。
「このエピソードのレベルは、せいぜい起・承のランクだ」
「じゃ、じゃあどうやってこれから『転』にもっていくんですかっ」
鳴海の言葉に対し、先輩も険しい顔をしながら、
「自分のことを好きな女の子が告白してくる……OKして嬉しい……
それだけの話を、どれだけの読者がおもしろがってくれるっていうんだ!」
「しっ、しかし!」
「たとえばだ!」
鳴海は口を挟もうとするが、それ以上に大きな声で先輩は続ける。
「告白されて付き合っているうちに好きになったのはいいけれど、なにかのアクシデントが起きて、付き合っていることが出来なくなる……」
「ぎくっ!」
その言葉を聞き、驚愕する鳴海。
「そ、それで……?
それで、その男はどうするんですかっ!?」
「それから先はお前が考えるんだよ!」
ぴしゃりと言いきる先輩。
その言葉を受けて、鳴海は今までにない苦悶の表情を浮かべた。
そんな鳴海に対し、先輩はわずかな疑問を抱く。
そして、数日後
「先輩、また考えてきました!」
「うむ! 聞かせてみろ」
「あのですね、実はこの主人公とバカ仲間である同級生の女の子、水月がいるんです!」
「ふむふむ」
「この主人公に告白してきた子を、仮に遙としますよ。
遙と付き合ってるって言うのに、主人公はこの水月と男友達の慎二ってやつとのバカ関係が崩れることばかり心配しているんです」
「……ほう」
「とはいえ、付き合って色々あり一時は破局かと思われたんですが、雨降って地固まる的に二人の仲は近づいていきまして。
やっぱ男ってのは、可愛い彼女ができちまえば、バカ仲間よりそっちを優先しちゃうもんですよねっ!!」
「そ……それは人それぞれだと思うが」
「それで、主人公は遙と本格的に付き合い始めたんですが……
実はその後、遙が交通事故に会ってしまうんです!
それで、その後失意の淵に立たされていた主人公の元に、半ば押しかけ女房のように水月がやってきてくれるわけです!」
「……け、結構緊張感あるな」
「でしょう!?
当然男としてはそうなるともともと気になっていて、一緒にいてくれる水月の方に気持ちがいっちゃいますよねえ!
体は遙と付き合ったり腕組んだりキスしたり遙伝説だったりしても、心はもう水月のもんなんですよ!」
鳴海の態度に対し、わずかな反応を見せる先輩。
「それで!? それでどうなる!?」
「フッフッフ。まあ落ち着いてくださいよ。
それで主人公は遙を捨てて水月と一緒になるんです。
男らしくきっぱりと遙に別れを告げるんですよ!」
「それで……主人公は水月とうまくいくのか?」
「そりゃあハッピーエンドですよ!
いろいろあったけど、最後は一番好きな女の子とカップルになるんです!」
自信満々に言い放つ鳴海。
しかし、その鳴海に先輩の左ストレートが炸裂した。
吹き飛ぶ鳴海。
「せ……先輩?」
「起承転結が問題ではない! それ以前の人間のレベルでの問題だ!
きさま、そのラストでいいと思っているのかっ!
遙ちゃんはどうなるっ、遙ちゃんはどうすればいいんだっ、遙ちゃんはあ……」
激昂する先輩に対し、何も言えない鳴海。
「だって……」
「書いたものが何百万部とすられて世に出されるエロゲライターがだ(そんなにすられません)、
男が女を安易に裏切って幸せになるなんてストーリーを安易に書いて、そんな……そんな情けないフィクションを堂々と書くなーっ!」
先輩は鳴海を首根っこをつかんで揺さぶりながら、なおも言葉を続ける。
「きさまの世界では女を見捨てる男が幸せになるのかっ! えっ!
答えんかっ、鳴海っ!!」
「う……うう」
「この主人公は幸せになんかなれるもんか!!
いつまでも尾を引いて……遙ちゃんのことが尾を引いて、水月と一緒にいたって楽しくなんかなれないはずだ。違うかっ!」
先輩の言葉に対し、鳴海は目に涙を浮かべながら、
「その通り……その通りです、先輩!
いつも俺は水月とつきあっていても……早く遙がよくなってくれないかって、そんなことばかり考えているんです!」
「お……お前」
「ぼくはもう疲れました……いっそのこと、水月と別れて遙と闘病生活に乗りだろうかと……」
「まっ、まさか鳴海、そ……それは実話なのか!?」
驚愕する先輩。泣きじゃくる鳴海。
「おれはどうしたらいいんですか先輩っ!」
静寂が二人を包む。
やがて、先輩が口を開く。
「おれは、ただの一介の萌えるエロゲライターにすぎん。
起承転結は教えることができても……男女関係のもつれを解いてやることはできない……」
「……」
「ただ……ひとつだけ言わせてくれ……」
そう言うなり、先輩は再び左ストレートで鳴海を吹き飛ばし、
「自分がどうしていいかわからんものを、作品の中でいーかげんな結末をつけるなーっ!!!
しかもハッピーエンドだとおっ……片腹痛いわっ!!」
倒れこむ鳴海。興奮冷めやらぬ先輩。
鳴海は、そのまましばらく立ち上がることはなかった。
*
そして、それからさらに一週間後。
……また、やつはやってきた。
「先輩っ! 例の奴の結末……変えました!」
「そうか、見せてみろ(こいつ、いろいろ考えて成長しやがったかな?)」
期待しながら、原稿に目を通す先輩。
「実は、この主人公を影でみつめていた第三の女がいて!
これがけっこう美人で……過去の女のことは忘れて、
主人公は新しい人生の一歩をふみだすんですよ! 新しい女と!」
「……」
先輩の左ストレートが、三度唸りを上げ、
……その後、鳴海孝之の姿を見たものはいない。