真琴が歩いていたらこけた。
こけたら、手に持っていた肉まんが近くの湖に落っこちた。
「わっ、大変っ、早く拾わないとっ!」
『落ちたものは3秒以内に拾えばばっちくない』という真琴ルールに従い、肉まんを捕獲しようとする。
しかし、湖の中から突然、神々しい雰囲気の女性が現れた。
その手には、金と銀の肉まんを持っている。
「わわっ、あ、あなた誰っ?」
「私はこの湖の精霊。湖に肉まんを落としたのは、あなたですか?」
突然現れたその精霊に、真琴はびっくりしつつも、
「あ、そうだよ。肉まんを落としたのは、真琴だよ」
「それでは、あなたの落とした肉まんは、この金の肉まんですか? それとも、こっちの銀の肉まんですか?」
尋ねる精霊に、しかし、真琴は首を横にふり、
「どっちも違うもん。真琴が落としたのはふつーの肉まんだもん」
「あなたは正直ですね。そんなあなたには、この金と銀の肉まんをあげましょう」
「え、二つもくれるの? やったーっ」
なにも考えずに、真琴は金と銀の肉まんを受け取る。
「いつまでもその正直な心をなくしてはいけませんよ。それではー」
「うん。ありがとーねー」
湖の中へ戻っていく精霊を、真琴は手を振って見送る。
完全に沈んでしまったのを確認したあと、手に持つ金の肉まんを食べようとする。
「えへへ。いっただっきまーすっ」
金の肉まんに思いっきりかぶりつく真琴。
しかし、期待していたようなやわらかな皮の感触も滴る肉汁の旨みも無く、あるのはただ「がきっ」という感触のみ。
「……あう?」
真琴は押し黙る。状況が把握できない。
ただ……歯が痛い。
「これ、食べられないの?」
あきらめずがしがしと噛みついてみる。
しかし、なんど噛んでも帰ってくるのは冷たい金属のもの。
「あ、あうーっ、こんな食べられないのなんか、いらないわよぅっ」
真琴は金と銀の肉まんを投げ捨てる。
これらを売れば普通の肉まんなど山のように帰るのだが、おつむがキツネな真琴はそんなことに気付きもしない。
「うーっ、ばかーっ、美汐にいいつけてやるんだからねーっ」
真琴はそう捨て台詞を残し、涙目でその場を去っていった。