そのいち。
 俺が商店街を歩いていると、見なれた羽付きリュックが目に入った。
 うしろから近づいて確認すると、それは確かにあゆだった。

「おーい。あゆ」

 声をかけてみるが、あゆはこっちを振り向こうとしない。
 良く見てみると、耳にイヤホンを当てていた。
 音楽でも聴いているんだろうか?

「おい、あゆ」
「うぐぅ?」

 肩に手を置いて、ようやくあゆはこっちに気づいたようだった。
 と、その瞳は、なぜか涙に濡れていた。

「どうかしたのか?」
「…祐一くん」

 あゆは黙ってイヤホンのかたっぽをこっちに渡す。聞けということだろう。
 俺がそれを耳に当てると、

まーいにちーまいにちーぼっくらっはてっぱんのー

 社会からドロップアウトしたタイヤキの歌が聴こえてきた。

「うぐぅ。悲しい歌だよぉ」
「…ああ、そうかもな」

 それ以外、俺にかけてやれる言葉は無かった。

そのに。

 俺が夜の学校を歩いていると、見なれた剣持ち不審女が目に入った。
 うしろから近づいて確認すると、それは確かに舞だった。

「おーい。舞」

 声をかけてみるが、舞はこっちを振り向こうとしない。
 良く見てみると、耳にイヤホンを当てていた。
 音楽でも聴いているんだろうか?
 まったく、こっちはせっかく差し入れの牛丼を持ってきたってのに。

「おい、舞」
「…」

 肩に手を置いて、ようやく舞はこっちに気づいたようだった。
 と、その瞳は、なぜか涙に濡れていた。

「どうかしたのか?」
「…祐一」

 舞は黙ってイヤホンのかたっぽをこっちに渡す。聞けということだろう。
 俺がそれを耳に当てると、

あーるーはれたーひるさがりー

 売られていく子牛の歌が聞こえてきた。

「…悲しい」
「…ああ、そうかもな」

 そうして、舞は俺が手にもつ牛丼を見て、

「子牛さん…」

 それから、俺のことを責めるような目で見て、

「…祐一、ひどい」
「俺が悪いんかい」

 しかし、舞は結局牛丼を食った。
 生きるとは、奇麗事だけではすまないようだ。

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