天気がいいから授業をサボった。
学校の裏庭にある草むらに寝転がり、空を見上げる。
この前見つけた場所なのだけど、ここは日当たりもよく、昼寝にはとても適している。
青空を、面白い形の雲が流れていった。
食べたらおいしそうだ。
「ときどき、思うんだよ」
と、僕はもう1人の僕に話し掛ける。
「僕が僕だと思っているこの僕は、ひょっとしたら偽者なんじゃないか、ってね。ある地点から始まって、今ここにいる僕は、ある意味それまでとは切り離された存在だ。もしそうだとするならば、今僕が思っているこの僕は、つまり偽者だ。それは、少しさびしい考えだと思う。僕は、この僕を結構気に入っているからね」
彼はなにも答えない。
「だけど、本当は、そんなことどうだっていいのかもしれない。僕はここにいる人たちが好きだ。ここにいる人たちが、笑っていられる世界が好きだ。そのためになら、戦える。それは君も同じだと、そう思っている。それが一番たいせつなことだ。そう。僕が君だったとしても、そんなことは、たいしたことじゃあない。そう思う」
僕は、そう言った。
彼は笑っている。
作り物じゃない、本当の微笑だ。
だから、もう大丈夫だと、僕はそう思った。
「速水、こんな所にいたのか」
その声を聞いて、僕は振りかえる。
そこには、彼女がいた。
「何をしている。こんなところで油を売っている場合ではないぞ。本田も相当怒っていた」
「それは大変だね。じゃあ、行くか」
「じゃあ行くか、ではない。まったく、もっとしゃんとしたらどうだ?」
「そうかな……そうだね」
「そうだぞ。お前も、ずいぶんと変わったかと思ったが、そういうところは変わらんな」
「気に入っているからね。変えるつもりもない」
「……まあ、それもいいだろう。それより、こんな話をしている場合ではないぞ。さすがに舞踏の勲章授与式に遅れるわけにはいかん」
「ああ、そうか。うん。そうだった。じゃあ、行こう」
最高の称号。
つまりそれは、終わりを意味する。
「意外と早かったな。ここまで」
「何を言っている。これからもしなければならないことは多いぞ。むしろこれからが大変だ」
「そう、だね。あ、それよりもさ」
「なんだ? ……っっ、い、いきなり何をするっ」
僕は彼女を抱きしめた。
顔を髪の毛に近づけて、ゆっくりと匂いをかぐ。
彼女の、匂いがした。
「いや、なんとなくしたくなって」
「ば、馬鹿者っ。こ、こういうことはだな、その、このような昼日中からするものではないだろう」
「あ、ごめん。嫌だったかな」
「いや、いやというか、その、むしろ、いや、そうではない……ええい、いいから離せっ」
彼女があまりに赤くなるので、僕はもうちょっとかまってみた。
そうしているともっと赤くなったので、さすがに僕は止めてみた。
「まったく……やはりわからんな、お前は」
「そうかもしれない。自分でもよくわからないよ」
言いながら、僕は笑う。
もう一度、空を見る。
やはり、空は青かった。
「じゃあ、行こうか」
「うむ。せいぜい上手い言い訳を考えておけ」
「別に。正直に言うしかないよ」
「ふむ。愚かしくはあるが、美徳でもあるな」
そんな話をしながら、僕たちは歩いていく。
終わりへと。
「……」
「ん? なにか言ったか?」
「ううん。なにも」
「そうか」
聞こえないように、僕は呟いた。
さようなら、舞。
*
最後の戦いが終わる。
僕は、OVERSを停止させる。
そしてまた、いつかどこかで。