「説明しようっ!
 霧島探険隊、それは、ご近所に存在する謎いっぱいなプレイスを探険する部隊なんだよぉ!
 メンバーは私こと、隊員一号にして隊長の霧島佳乃。
 そしてペット兼非常食の隊員二号ポテト。
 技の一号、力の二号と覚えてもらって問題ないよぉ!」
「……おい、佳乃」
「ん? 隊員三号の国崎往人くん、なにか質問かなぁ?」
「いや、かなぁ、じゃなくて」
「んー。三号は不満なのかなぁ? 仕方ない、君を二号に昇格してあげようっ」
「ぴこぴこー♪」
「いや、そうではなくて」
「ええーっ、もしかして隊員一号、つまりは隊長の座が目当てなの?
 もう往人くんったら下克上。でもでも、そんな上昇志向自体は悪くないとも思うよぉ」
「いや、だからそうでもなくて」
「?」
「ここは、どこだ?」

 俺は周りを見る。
 あたりは得体の知れない植物が生い茂り、ときどき見たことも無いような虫が飛んでくる。
 そんな人外魔境。
 どうひいきめに見ても、ここが日本とは思えないのですが。

「んー。多分『裏庭』じゃないのかなぁ?」
「裏庭……って」

 確か、晴子から神尾家の裏庭はとんでもないことになっていると聞いたことがあるが。

「いやー、この辺りで秘境といったら、なんといってもここだからね。
 でも、裏庭はまだ始まったばかり、さあ、気合を入れて行こー。おー!」
「ぴこー!」
「いや、おー、でも、ぴこー、でもなくて」

 どうにもこのノリについて行けない俺を残し、佳乃とぴこはずんずんと奥へと向かう。

「そんなに何も考えずに行ったら、道に迷うだけじゃないのか?」
「だいじょーぶ! 時には道に迷うのも、それはそれで青春だからっ!」
「わけわからんぞー」

 と、俺達がそんな風に会話をしていると、近くの茂みから何やらがさごそという音が聞こえてきた。
 何か、かなり大きなモノが動いているかのような音だ。

「……おい、佳乃、なんかいるぞ」
「え?」

 俺の言葉を聞き、佳乃もそっちを見る。

「わ、何かな? もしかして裏庭の主、マスター・オブ・裏庭なのかな?」
「って、ちょっと待てっ、そんなうかつに近づいたら危ない……」

 俺の制止もかまわず佳乃はその音の元に近づこうとする。
 しかしそのとき、ヤツがその姿をのそっ、と現した。
 全長三メートルには達するだろう、その異形。

「く、熊っ! 英語で言うとベアっ!」
「わ、しかも放射能異能熊だよっ! こいつはピンチだっ!」
「ぴ、ぴこっ、ぴこっ」

 なんでこんなところに放射能異能熊がいるのかはわからないが、ともかくそいつはこっちに近づいてくる。
 その目には……おそらく、俺達は餌としか映ってないだろう。
 このままでは二人と一匹ともこいつの胃袋に納まってしまうだろう。
 それならば……。

「佳乃っ!」
「は、はいっ。なんですか往人くん」
「ここはお前が食いとめるから、俺は逃げるっ!」
「口調だけ聞くとなんだかかっこいいような気がしちゃったけど、台詞をよく聞くと情けないよぉ!」
「まあ気にするなっ! 大丈夫、お前ならきっとやれるっ!」
「根拠がよくわからないよぉ」

 俺達が言い合っている間にも、熊はこっちに近づいてくる。
 そしてそいつはその腕を振りかぶり、振り下ろそうとしてた。
 その先には……佳乃がいる。

「!」

 多分、なにも考えてはいなかった。
 ただ。
 前に踏み出していた。

 衝撃。
 激痛。
 そして、

「往人くんっ!」

 最後に、俺の名前を呼ぶ佳乃の声を聞き。
 暗転。

 意識が朦朧としていた。
 目を開けることは出来ない。
 自分がどんな体勢なのかもわからない。
 ただ、声が聞こえてきた。
 俺の声とも、佳乃の声とも違う。
 威圧感を感じさせる声だった。

―若造が。ワシが留守の間に、随分ハシャいでくれたようじゃのう。
―しかも、ワシのお気に入り二人に傷を負わすようなことしおって。
―おんどれ、ただで済むと思うなよ……。

 閃光、轟音、悲鳴、断末魔、そして何かを噛み砕くかのような音。
 再び暗転。

「往人くんっ! 起きて、往人くんっ!」
「ん……ああ」

 目を覚ます。
 辺りを見ると、そこはなんの変哲も無い、ただの草原。
 どうやら、意識を失っている間に移動していたらしい。

「もう、往人くん目を覚まさないから、心配したんだよぉ」
「……ああ、わりぃ」
「ううん。目を覚ましてくれたからいいよ……それに」

 佳乃は、少し顔を赤らめ、

「かばって、くれたんだよね」
「ん? あ、ああ。あんまり役には立たなかったけどな」
「そんなことないよ。すっごく嬉しかった」

 言って、微笑む。
 なんとなく照れくさくなった俺は、佳乃から目線をそらし……。
 その横にいる、白い犬形毛玉を見た。
 ポテトと呼称される生命体を見た。
 なぜか、もうおなかいっぱい、という顔をしている。
 口の周りが赤く染まっている。
 口の端っこから、何か動物の臓器っぽいものがはみ出している。
 なんとなくその顔は満足げ。

「ん? 往人くん。どうかしたの?」
「……いや、なんでもない」

 俺は言葉を濁した。
 これ以上考えては行けない気がしたのだ。

 ひょっとしたら。
 俺達は、熊などよりよっぽど恐ろしい生物と行動を共にしているのかもしれない。

(おしまい)

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