亞里亞しつけゲーオープニング

じいや「亞里亞さまー、お待ち下さいっ、亞里亞さまーっ」
亞里亞「やぁ。じいやぁ、きらいー」
じいや「そんなこと言わないで下さいっ。亞里亞さまっ……はぁっ」

 ばたっ。

亞里亞「……じいやぁ、どうしたの? じいやぁ?」
じいや「な、なんでも、ありません。ご心配には及びませんよ……」
亞里亞「しっかりして、ねぇ、じいやぁ……」


……。

じいや「と、言うわけなのです」
僕「はぁ」

 亞里亞のところのじいやさんが倒れたと言うので、慌てて病院へと駆け寄った僕が聞かされたのは、そんなじいやさんの話だった。

じいや「お医者さまの話ですと、過労で倒れた、とのことなのです」
僕「……まあ、わからなくもないですけど」

 じいやさんは亞里亞のしつけを一手に任せれている。
 ……それは、想像するだけで大変そうだ。

僕「それで……亞里亞は今、どこにいるの?」
じいや「少し前まで私の元にいてくださったのですが、疲れてお眠りになってしまったので、屋敷の者に連れて帰ってもらいました」
僕「なるほど。じゃあ、今は屋敷にいるわけだね」
じいや「はい。今のところは、大人しくお眠りになっていると思います」
僕「じゃあ、僕も顔を出しておこうかな」
じいや「そうしていただけると助かります。あと、その件で、1つお願いがあるのですが
僕「え? 僕になにか?」
じいや「はい。お医者さまのお話ですと、大事を見て1週間は入院した方がよいとのことでして」
僕「それは、また」

 随分疲れてたんですね、というのを僕は飲みこんだ。

じいや「はい。それで、ですね。その間、屋敷には、その、亞里亞さまのしつけを出来る者がいなくなってしまうのです」
僕「まあ、確かに亞里亞の世話が出来るのはじいやさんくらいですしね」
じいや「はい。それで、その……その一週間の間、お兄様に亞里亞さまと一緒に暮らして、様子を見ていていただきたいのです」

 その言葉に、僕は少し驚く。

僕「一緒に暮らして……って、僕にあのお屋敷で暮らせってこと?」
じいや「はい。学校などへの移動には、屋敷の者に車を出させますから問題ありません。どうか、引き受けて下さらないでしょうか?」
僕「うーん」

 ちょっと考えてみる。
 でも、別に考えるほどのことじゃない。
 亞里亞と僕は、事情があって、兄妹なのに一緒に暮らしていない。
 たとえ少しの間でも、一緒に暮らせるのなら、そうしたほうがいいし、そうしたいと思う。

僕「うん。わかった。僕でよければ、やらせてもらいます」
じいや「本当ですか? ありがとうございますっ。では、私は大丈夫ですから、早く亞里亞さまにそのことを伝えに行ってください」
僕「うん。じゃあ、じいやさん、お大事にね」
じいや「はい。それでは……亞里亞さまのこと、よろしくお願いします」

 そう言って、彼女はふかぶかと頭を下げた。
 ちょっと厳しい所もあるじいやさんだけど、きっと、この人が一番亞里亞のことを考えているんだと、そう思う。

 病院を出た所で待っていた、亞里亞の屋敷の車に乗って、僕は亞里亞のところへと向かった。


 「もうすぐお夕食の時間なのに、部屋から出てきて下さらないんです」と、お屋敷の人は言っていた。
 くすん、という聞きなれた泣き声が聞こえてきた。
 僕は、こんこん、とそのドアをノックする。
 部屋の中では、相変わらずくすん、という泣き声がしている。

僕「亞里亞、入るよ」
亞里亞「え? にいやぁ?」

 ドアを開いて中に入ると、中では亞里亞がベッドに座り込んで目を押さえていた。
 その目は、少し赤くなっている。

僕「じいやさんのことは聞いたよ。大変だったね」
亞里亞「……」
僕「亞里亞?」
亞里亞「……亞里亞の、せいなの。亞里亞のせいで、じいや、倒れちゃったの」

 亞里亞は、しゃくりあげながら小さな声でそう言う。
 赤い目から、ぽろぽろと涙がこぼれ出す。

僕「亞里亞……」
亞里亞「亞里亞ね、亞里亞ね……」

 そう言って、亞里亞はただぽろぽろと泣きつづける。
 どんな言葉を紡げばいいのか、わからずにいるようだった。
 僕は、亞里亞の元へと近寄って、その小さな肩をそっと抱きしめた。

亞里亞「……にいやぁ?」
僕「大丈夫だよ。じいやさん、すぐによくなるって言ってたから。すぐ、ここに戻ってくるよ」
亞里亞「でも……亞里亞、じいやがいないと……」

 そう言って、亞里亞は寂しそうな顔をする。
 ずっと側にいてくれていたじいやさんがいなくなってしまったのだから、無理も無いだろう。

僕「今日から、僕が一緒にいてあげるから」
亞里亞「え?」
僕「今日から、僕が一緒にいてあげる。じいやさんが帰ってくるまでの間だけだけどね」
亞里亞「ほんとう?」
僕「本当だよ。だから、もう泣かないで」

 僕がそう言うと、亞里亞は僕にぎゅっ、としがみついて。

亞里亞「亞里亞ね、いい子になるから。がんばって、いい子になるから」
僕「うん。そうだね。じいやさんが帰ってきたときに、びっくりさせてあげなきゃ」
亞里亞「うん……うんっ」

 そう言って、亞里亞は、笑ってくれた。

僕「それじゃあ、まず涙を拭こう。かわいい顔がだいなしだよ」
亞里亞「うん……えへへ。あのね、亞里亞ね」
僕「うん?」
亞里亞「おなか、へっちゃったの」

 亞里亞はおなかを押さえる。
 それを見て僕は、くすと笑いながら、

僕「うん。それじゃあ、まずは、ご飯にしようか」
亞里亞「うんっ」

 そうして。
 僕と亞里亞の、一週間が始まった。