味覚音痴


 伯母の手料理はゴーカイで、性格なのか、量も味付けも少し度を越していたところがあったと思う。
  父が幾度か戦争に行っていたときには家業の一切を掌握していた手腕も、そんな台所事情に反映していただろうと、当時を、まだ生まれていなかった私は想像する。
 
 記憶する食べ物の味の中で濃い味付けのものを順に並べていけば、甘いもの、からいもの、しょっぱいもの、全部、その伯母の作った手料理のような気がする。
 気にしてみているような年齢ではなかったと思うが、鍋に調味料を入れるところなど思いおこすと、カップで1杯2杯と計量するというようなやり方ではなく、一升瓶を逆さにして、ドバーッと注ぎ込むといった、調理法だった。
 風呂好きでもなかったような気がする。 よく背中を掻いてくれと頼まれ、小さい手で、広いやわらかい背中のあちこちを、上、下、右、左、と指図されながら、孫の手と同様の役割を果たした。
 近年になって、様々な分野で意識が変化したのか、芽ばえたのか、知識や情報も氾濫するようになって、味覚障害という言葉が出てきて、ハタと思いつく人が、私が小さかった頃、その背中におんぶされて、何度もその人の手料理を口に運び、今の自分とさほど年齢の違わない、伯母を思い出させた。
 マグネシュウム、鉄分、ミネラルの欠乏、うんぬんは専門家にお任せする。
 どの位の比率で、そういった人達が居るのか、それもよくわからないが、いつの間にやら、ある程度のパーセンテージで、顕在するのは確かだ。


 イラクという国を舞台に戦争が始まって、メインキャストは度々TV.他報道に登場する。
 地球上の誰もが、宇宙ステーションの3人も含めて、以来、誰もウマイ食事を摂っていないと思う。
 政治、軍事、経済評論家に難しい話は全部まかせる。だけど、その人たちも腹が減ればどこかでめしも食べるだろう。うまい??国の代表を務める方々も、こんな時期にも高級料理に舌鼓を打つ機会もあるでしょう。うまい??
 粗末な中身の食卓を囲んでも、充足感に満ちた夕餉を迎えたい。多くの人達が望んでいることだと思う。生きていくうえでは最初の話だ。
 諍いや、争いは後味が悪いのは決まっている。勝ち負けの判別もつかないような戦いだって同じだ。


 塩梅宰相の材、という言葉をどこかで覚えた。味加減のわかる料理人は一国の総理の器、というような意味らしい。世界中の人達の食事をこんなにまずくしている、誰とはいわないが味覚音痴な方々、子供の頃の、お母さんに食べさせてもらった手料理の味を思い出してほしい。はたまた、何らかの事情で食べられなかったか、それなら、又、そんな情況を作り出さないでほしい。

 皮肉なことだと思うけど、ロックンロールにいかれ、ハンバーガーをコーラーで胃袋に流し込めば、ほれ、ご覧の通り。イギリスのフィッシュ・アンド・チップスというのも似たような食べ物らしい。

 どこか本人の気づかないところで、味覚音痴のラヴェル貼りをしている私がいる。