木の話 頭の中であれこれイメージしながら、小刀で小さな木片を削り出していく。ゴリゴリ、ガリガリ、サクサク・・・。イメージしながらといってもその実、考え事などしないで、木を小刀に任せているといったほうがいいかもしれない。 木を扱う仕事をしていればどこにでもころがっていて、ストーブなんかあればちょうどよい薪にでもなりそうな一片の木の塊・・・。 ちょっとした気まぐれで、こうして小刀で削られ、気の利いたスプーンに形を変える。もとはただの木の切れ端なんだけど、ミルクや紅茶のカップをかき回したりするとき、柄を持つ人の心を「ホッ」と和やかにしてくれる。これは金属のスプーンでは出せない木だけの味だと思う。 「いったいこの木はどこで育ったのだろう?」 削りながらふと思う。 どこかの山の中で長い間育てられ、ある日伐採され製材所へと向かう。そこで丸太は板になったはずだ。そして「主要な材は」は、規格や注文に合わせて加工され、組み立てられて、立派な箪笥や椅子、テーブルとなる。 その途中ではみ出してしまったのがこの木片だ。かたや家具としての洋々たる前途が約束された木と、かたや朽ちるか薪になるか瀬戸際の運命の木片・・・。 けれども一寸の材にも五分の魂だ。ちょっと工夫して手を入れると、ただの棒切れが新しい生命を持ち始める。そして使ってくれる人を心待ちするようになる。 これこそ木の持つ魅力だなぁと思う。石よりも金属よりもたぶん、木はヒトにやさしい。 |
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