雨
高い山の稜線を、霧の濃淡がかわるがわる視界を変化させる中、気がつくと、衣服まですっかり濡れそぼったまま歩いている。 雨具を身に着けても気やすめで、こんなときには荷物の中に厳重に防水対策した替え着を持つことだけが、気分を鼻歌まじりにまで回復させてくれる。 自動車のある暮らしになって、全身濡れねずみといった、経験はほんとに少なくなった。 多少の不便さや、手間のかかる所作を粋という言葉に置き換えて、やせ我慢かもしれないが、上手にやり過ごす術を忘れかけてきている。便利になった分だけ人間の頭も感覚もマヒしてきている事に気づくにも、まだ時間はかかる。 築○十年、旧い住宅地図に小屋と記されていた家に住んでいた頃には、気象にも気を配り、大雨、台風の際の雨漏りも悩みの1つで、そんな自慢話にもならないエピソードさえ、なにかと笑い話のネタにしたり、身に迫る雨漏り対策もかねて、リフォームも好き勝手にほどこした。 パリの街並の車で混雑する通りを、小さいモーターバイクに乗る若者が、信号に引っかかる度に高性能スポーツカーに何度か追いつき、又、追い越されていくシーンで始まるフランス映画。曇り空と、雨模様の場面が映写され。レイモンド ルフェーブル楽団といったか、主題歌となったオーケストラの演奏曲も、ナタリー ドロンも、ルノー ベルレーも、パリの街も野暮でもなかった、「個人教授」という映画。ラストシーンも雨の降る光景だったと思い返して、、、霧雨のようにしみわたる自然もそうだが、人為的にも圧倒的な力の前に、子供だましのようなシグナルレースを遊ぶことすら難しくなってきている今、瞬間、雨雲が途切れ、周囲の山容を見渡すと、ルートを大きく外れ、とてつもない絶壁のただ中に立たされていたときの気分に迷い込む。 音質の良くないラジカセから流れてくるのは、古いイタリア歌謡、サンレモ音楽祭で賞も取った、ジリオラ チンクエッティの雨。 仕事場の窓の外にはパリの空とひと味違った、今にも泣き出しそうな曇り空が広がっている。 |
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