赤カブで行こう
明日から12月という日の朝、普段より厚ぼったい身支度を整え、50ccのモーターバイクを外に引き出す。燃料を確認して小さいポリタンクに半分くらいガソリンを詰めて、バイクの前カゴに入れ、頭の中で、「丁度いい位かな、」と陽が少しあがった8時半頃家をあとにする。 初冬の町並みは仕事、通学のいつもの人の流れで、ヘルメットのシールドが息で曇りがちだが、道順を組み立てながら車の流れに合わせるように進めていく。 お昼、12時にはほんのわずか前に、銀座、並木通りの画廊の舗道にバイクを停める。カゴのポリタンクのガソリンをバイクに移すと、丁度、また、満タンとなった。 眼をあげると「ヨーッ!」とその画廊で今日までの会期のグループ展「絵の本展」を見に来てくれた人達が、通りをはさんだ反対側にいた。 会場にも入らず舗道で立ち話をしていると、後からも申し合わせたように絵を見に来てくれた人が集まり、狭い階段を上がっていって、「どやどや、」といった感じで小さいギャラリーの中に押し入っていった。 それぞれがてんでに鑑賞を愉しみ、お茶を飲みながら会話も弾んで、誰かが提案するするともなく、そろそろお昼でもと、午後の柔らかな陽射しの当たる並木通りに皆で繰り出していった。 7人位のオノボリさん達は通りの店のあちこちに引っかかって、写真を撮ったり、ウィンドウショッピングにいそしむものだから、迷子にはならなかったが、先頭としんがりでは長い距離ができてしまった。中華料理の昼食会も、話題は新しいスクーターのカタログを広げての、車種選定に終始して、幼稚園の給食というと、人格をとり沙汰されかねないので、高校生のお昼ごはん、くらいの楽しい時間だった。ゴチになって、どこかのビルの中の常設、「書展」も見物。有楽町駅まで流れていって解散となった。 画廊の片付けまでには時間もあるので、近くのフランス資本の百貨店にトイレを借りに入って、商品ディスプレィや、店員さんの応対、色彩感覚、デザインのお勉強をした。迷いながらトイレに入っていくときなど、舞台の楽屋裏をのぞいているようなおかしさもあったが、パリのエスプリは見つけられないまま出てきてしまった。 他の出展者達より早く片付ける言い訳をあれこれ、言いつらねていると、幼友達のNちゃんが現れ、荷物をほどいておしゃべりに興じ、ひとしきりお互いのなつかしさを埋め合わせ、差し入れられたナポレオンと私の作品を、画廊のオーナーは、これでもか、というくらい丁寧に包んでくれて、それをバイクの荷台にくくりつけた。 参加者が揃っての打ち上げパーティーも遠慮して、都県界の戸田橋を渡るとき、夕暮れ景色のはるか彼方に私の戻る家がある。 片道100km.位の日帰りバイクツーリングだったが、その後しばらくは普段見慣れた、50ccバイクの愛用者を、「銀座でお買い物?」とか、「上野の森の展覧会を観に行ってきたの?」と視点を変えて眺めてみると愉快だ。 自分が普段、お使い専用のように使っている小さいバイクも、わずかなきっかけで、フェラーリのようにも見えてくる。似たような赤い色をしていて、スーパーという形容もされ、なにしろアジアンハイウェーでは絶大な信頼を得ている カブ ですから。 |
![]() |
![]() |