噛めば体が強くなる

                 西岡 一

解説 小峰一雄  
1. 噛まないからこんなことに
 人類が誕生して現在まで少しずつ食べ物を食べる際に噛まなくなっている。最初は獣や魚などの獲物、野生の草・木の実・果 実を生で食していたが、やがて火を使い調理して軟らかくするようになり、咀嚼回数が減少してきた。特にこの50年で加速度化してきた。それはインスタントラーメンが世に出、インスタント食品が拍車をかけたと思われる。
  その結果、噛まない子供達の歯は乱ぐいになり、顎の発育は悪く人相が変わってきた。それだけでなく、むし歯は増え、癌や生活習慣病などが増加させている。
 何を隠そう、この私も咀嚼回数が与える影響について学位を取得したのである。従って、ひじょうに興味深く読ませていただいた。
2. 日本人はなぜ噛まなくなったのか
 1958(昭和33)年に日本で初めてスーパーマーケットがオープンした。そこで、本来は「三里四方で採れたものを食べる」という諺があるように、自分の住んでいる三里(12Km)の範囲のものを食べるのが健康によいということであった。しかし、合成保存料などにより大量 生産し供給できるようになり、スーパーマーケットで遠隔の食品が簡単に入手できるようになったのである。そんな中でなぜか日本ではやわらかいものが高級品のごとく扱われはじめたのであった。全くの思いこみである。
 小学生の調査でも硬いものは食べられないと思っている子供が多いのである。この事実をお母さん方は知っているのだろうか?
3. なぜ唾液に注目したのか
 前述の合成保存剤などの食品添加物の殺菌剤(AF-2)に発ガン性があることがわかり、当時世の中が大パニックになった。ところが、その後魚や肉のやけこげに発ガン性があるという説が流され、ふたたび驚愕したのであった。そこでこれらの毒物に対して唾液がどのように作用するか興味を持ち、研究を開始したのである。
  その結果、唾液はこれらの発ガン性物質に対して無毒化する働きがあることがわかった。その後、魚の焼けこげは無実だったことがわかり、AF-2を許可した政府の責任追及時に突如して出てきたので、この魚の焼けこげ問題で政府がカモフラージュしたのかな?とも想像できる。
4. 知られざる唾液のパワー
 前述のAF-2を用い、世界初の唾液の無毒化作用機序の研究を開始した。その結果 、予想以上の唾液にすごい力があることを発見した。
5. 活性酸素を噛み消す唾液の力
 唾液の毒消し作用とは発ガン物質が細胞内に発生させる活性酸素を消去することである。活性酸素とは次のように説明されている。「私たちは呼吸によって空気を吸って生きている。呼吸ができなると生きてはいけない。それは大気中には約20%の酸素が含まれ、この酸素を生命活動に利用しているからだ。ところがこの酸素の約2%が有害な活性酸素に変わる。」この活性酸素はスーパーオキシド、過酸化水素、OHラジカル、そして過酸化脂質として動脈硬化、糖尿病、心臓病、肺気腫、白内障など、生活習慣病の主原因とされ、老化にも密接に関係している。
6. 活性酸素に負けない防御法とは
 我々の健康を左右する主たるものが、活性酸素である。食べ物をよく咬むことで唾液により効果 的な防御法であるが、その他の負けない方法は?  
  母乳:母乳にも活性酸素を消去する働きがある。母乳と粉ミルクの違いはこの効果 だけで母乳に勝るものはない。  
  野菜や果物:ブロッコリー、ほうれん草、ニンジン、レモン、グレープフルーツ、ミカン、オレンジ、アセロラ、ライチなど抗酸化作用があると言われている。これらには天然のビタミンC(アスコルビン酸)が多く含まれ、関係していると思われる。  
  お茶:南米のマテ茶、アフリカのルイボスティ、中国のウーロン茶、日本の緑茶などがあり、カテキン類やポリフェノール類などの抗酸化物質が関係している。  
  アルコール:アルコールを多少たしなむ人は、まったく呑まない人より、病気になりにくく、長命である。その理由はアルコールが気分を爽やかにし、ストレスを解消し、血液中の善玉 コレストール(HDL)を増加させ、動脈を若返らせるからだという。これらの理由に加えてアルコールがOHラジカルを消去するからである。  
  チューブ入りの練りわさびや練りがらしは危険であるので注意してほしい。  まとめると「人工的なものは活性酸素を発生させることが多く、天然のものは活性酸素を消去することが多い」ということになる。
 私は個人的にマグネシウムがよいと好んで摂取している。豆腐の「にがり」や海洋深層水に多く含まれている。
7. 噛むと美容や健康にどんな効果があるか
 身近な活性酸素から体を守るには  

A.活性酸素発生の原因となるものを体に入れない。  
B.体の入り口で、唾液の力で噛み消す。  
C.それでも発生する活性酸素を打ち消すような食生活をする。  

  噛めば脳の働きを活発にする。実際、実験したのは東京医科歯科大学名誉教授窪田金次郎博士である。一般 的に噛むことによる脳血流の増加により、前頭葉の活性化は、老人の行動意欲を奮い立たせ老人ボケの抑制に効果 があるとのこと。  
  若返りホルモン:すでに1928(昭和3)年、東大医学部の緒方知三郎教授によって唾液に含まれるパロチンによる若返り作用のメカニズムが解明されている。  
  アルミニウムの危険性:私たちの周辺にはアルミフォイル、アルミ缶 ビール、アルミ缶ジュースなどのアルミニウムがあふれている。実はアルツハイマーの患者の脳には異常にアルミニウムが検出されるとのこと。日頃、アルミ缶 ビールを常飲している私はショックを受けている。(まだ証明はされていない)  
  ダイエット:1984年アメリカのルブランクが実験を行った。それは同じカロリーの食事を、ある人にはよく噛んでもらった場合とこれを流動食にしてチューブで直接胃に送り込んでしまう。つまり全く噛まない場合とでは食物のカロリーがどう使われるかを調べた。よく噛んで食べた場合カロリーはすぐに体温としてどんどん放散されていく。これを食事による体熱放散(DIT, Diet Induced Thermogenesis)という。この体熱放散はまったく噛まないときより倍以上も高い。直接胃に送り込まれた場合は、この体熱放散は少なくて食べたカロリーは体脂肪としてどんどん蓄積されてしまう。また、このとき個人の自律神経系の働きが大きく関係してくる。自律神経系がよく発達している人は、この体熱放散がスムーズに行われる。ところが、よく噛めばこの自律神経系もよく働くのである。つまりよく噛むことによって、口の中に分布する味覚などのいろいろな感覚が刺激されて自律神経系の活性が高まり体熱放散の反応が強まる。これが「噛むことが肥満防止になる」という最新の理論である。
8. どうすればよく噛むようになるか
 この本に書いてあったが、「一口三十回噛む」ことを心がける最も簡単である。なぜなら、たえず実践しているからである。これについては十年以上試行錯誤している。
 
 この本を読んで人間の自然に備わった力のすごさに感動しました。私は歯科医ですので、ある程度は知っておりましたが、ひじょうに参考になった一冊です。