第七課 労働組合の組織形態
  1 組織形態の発展と欧米諸国の特徴
  2 日本の労働組合組織
  3 企業別組合の弱点の克服と産業別組織の強化

 

第七課 労働組合の組織形態

 欧米諸国の労働組合が、労働者を企業の枠にとらわれず、地域や産業で組織しているのに 対して、日本の労働組合では、企業別組合がふつうの形になっている。こうした労働組合の 組織形態は労働組合の性格や任務と表裏一体の関係にあり、要求や行動の形態、政策・方針 の決定に大きな影響をもっている。

    1 組織形態の発展と欧米諸国の特徴

 職業別組合から産業別組合へ 労働組合の組織形態は、日本に独特の企業別組合を別にすれば、一般的 には、職業別組合、表的労働組合、産業別組合の三つに大別される。
労働組合運動の初期には、どこでも、職種ごとに熟練工を組織した職業 別組合が一般的であったが、資本主義制度が確立・発展し、労働者の数が増大し、半熟練・ 未熱練の労働者の比重が高まるなかで、これらを地域や産業ごとに組織する一般労働組合、 産業別労働組合が発展した。そして今日では、産業別労働組合が、もっとも基本的な形にな っている。労働組合の歴史は組織形態の面からみれば、職業別組合から産業別労動組合への 発展の歴史であるといえよう。
 職業別組合 職業別労働組合というのは、同じ熟練職種の労働者が、地域別に結集する組織 である。たとえば、産業革命以前のイギリスでは、木型工、機械工、染色工といったよう に、類似の職種の熟練職人が、その居住する都市ごとに分散的な小組織を作つた。組織され る労働者がなぜ熟練職人に限られていたかというと、当時の工業は手工業の段階にあり、熱 練職人の役割が決定的で、しかも少数だったため、その有利な条件を利用して、労働条件や 権利の拡大につとめることができたからである。またなぜ、地域ごとの小組合にとどまって いたかというと、当時はまだ各工業地域の間の経済的結びつきが弱く、労働者の雇い入れの 範囲も各工業地域の範囲にはぼ限定されていたからである。
 全国組織への発展 しかし産業革命によって、機械制工業が発展して、各工業地域の全国的 な経済的結びつきが強まり、労働者の全国的な移動が行われるようになると、全体としてそ の数をいちじるしく増大した労働者たちの間には、一つの階級としての自覚が生まれ、地域 的な狭さを乗りこえて、全国職業別組合にまで発展した。また各職業別組織の間の地域的、 全国的連携組織も生まれた。地域評議会や全国的中央組織の結成がそれである。
 一般労働組合(合同労組) 一般労働組合または合同労組というのは、産業や、職種の違い、 また技術上の熟練・未熟練に関係なく、企業の枠を越えてあらゆる種類の労働者を結集する 組織形態である。一般労働組合は資本主義の発達過程で、熟練労働者だけを組織する狭い職 業別組合では、強大化する資本の連合体に対抗することができなくなったため、これに代っ て生まれてきた。イギリスに多くみられる。
 産業別労働組合 産業別労働組合というのは、同一産業、もしくは関連する諸産業で働くあ らゆる聴種の労働者を、熟練・未熟練の別なく、ことごとく組織することを目的とする組織 形態である。この組織は一般労働組合と同様に、資本主義が独占資本主義の段階に入り、旧 来の職業別組合では資本家の攻撃に対抗して闘うことが難しいことを経験するなかで生まれ た。とりわけ独占資本主義の段階にはいってからは、産業別を単位に労働組合を組織すべき だという主張が、労働組合運動を搾取からの解放をめざす階級運動として発展させるべきだ とする社会主義思想の影響も受けて強力になり、第一次大戦の時期には、旧来の職業別労働 組合が合同統一し、産業別労働組合に組織改変をする運動がさかんになった。一九一三年に イギリスで組織された全国鉄道労働組合は、そのもっともよい実例である。
 欧米諸国の労働組合組織
 組織形態 西ドイツではほとんどが産業別組合の形をとっており、イギリ スでは歴史的経過を反映して職業別組合、産業別組合、全国的職業別組合 (産別化している)、一般組合など複雑である。アメリカでは産業別組合が 中心である。イタリア、フランスでは、産業別を基本に、地域レベルの組合組織が大きな比 重を占めている。これは、フランス、イタリアでは、労働取引所(フランス)、労働評議会(イ タリア)などの地域組織が早くから確立され、労働者の相互扶助の機関として、後には闘い の機関として、大きな歴史的役割を果してきたためである。このように、それぞれ歴史的経 過によって相違があるが、いずれの場合も、日本のように企業ごとに労働組合が作られてい るのではなく、企業の枠にかかわりなく、地域や産業ごとに組織された横断的な労働組合が 基礎単位となっていることが共通している。
 全国的中央組織 アメリカでは、AFL・CIO(アメリカ労働総同盟)、イギリスでは、T UC(労働組合会議)、西ドイツではDGB(ドイツ労働総同盟)が、それぞれ、組織労働者の 八〇〜九〇%を結集して圧倒的に比重が高い。これらの全国組織は、労資協調・経済闘争中 心の立場に立っており、とりわけアメリカのAFL・CIOはアメリカ帝国主義の対外政策 に同調し、規約で「共産主義者」の加入を排除している。しかし、これらの国でも最近階級 的な運動が強まっている。これに対して、イタリア、フランスでは、階級的大衆的労働組合 の立場にたつCGIL(イタリア労働総同盟)、CGT(フランス労働総同盟)が、組織人員の点 でも、活動のうえでも大きな役割を果しているが、そのほかにも複数の全国組織がある。フ ランスではCFDT(フランス民主労働者同盟)、CGT・FO(労働者の力)が主要なもので あり、イタリアではCISL(イタリア労働組合連盟)、UIL(イ夕リア労働者組合)がある。
フランス、イタリアでは、六〇年代後半から、これらの全国組織の間に、統一行動が発展し ている。フランスではCGTとCFDTの間に統一行動協定が結ばれており、その指導で未 組織の労働者も含め、八〇%近い労働者が要求行動に参加している。イタリアでは、三大組 織の間に組織統一の課題が日程にのぼり、金属機械労組の場合は、すでにFLM(金属機械 労働者連合)という一本化した全国組織(連合体)が結成されている。
 企業レベルの組織 欧米諸国では、日本とは違って企業を越えた横断的な組織が基礎単位に なっているが、同時に企業レベルにおいてもなんらかの形で労働組合の組織をもっている。
 アメリカ、イギリス、西ドイツなどでは企業内で労働組合員を代表するものとして職場委 員(ショップ・スチェアード)があり、イギリス、西ドイツでは、賃金や労働条件、職場の変更、 作業班の組織などについて、企業と交渉し、ストライキを含む闘争を組織することもある。
 イタリアやフランスでは、六八〜七〇年の大闘争のなかで、企業内において労働組合を組 織し、活動する自由を認めさせ、企業内に労働組合の組織を確立することに大きな力がそそ がれている。イタリアでは六九〜七〇年の闘争のなかから、企業段階の「工場評議会」が結 成され、組織統一が進んでいる金属関係労組では、これを工場レベルの労働組合組織として 位置づけ、組織化を進めている。
 また、労働組合組織とは別に、フランス、イタリアでは以前から企業内の全労働者の選挙 で選ばれる従業員代表制、企業委員会(フランス)、内部委員会(イタリア)があり、苦情処 理その他、経営内の労働者の要求をとりあげ、使用者と交渉を行ってきた。
 組織率 現在、欧米四ヵ国の労働組合組織率はイギリスがもっと高く推定五〇%程度で、 ついでイタリア、西ドイツが四〇%、フランス、アメリカでは二五%となっている。

    

2 日本の労働組合組織



 企業別労働組合 日本の労働組合では、企業ごとに、主として正規の従業員だけを組合員として 組織し、企業内で独自の規約と財政をもち、運営される企業別組合が一般的で ある。全国金属は要求と闘いの発展のなかから、産業別単一組織としての組織 改革を積み重ねてきたが、いまで息企業別組合の連合体的な性格を残している。
 日本の労働組合が企業別組合という組織形態をとったのは、戦前の日本の労働組合運動が、 なによりも苛酷な弾圧のために、広範な労働者を結果する大衆的な労働組合の伝統を十分も っことができなかったこと、そして、そうした条件のもとで終戦後の困難な生活条件を改善 するために、急いで新たに労働組合を再建しなければならないという課題に直面したことと 結びついている。組織をつくる最もてっとり早い方法は、労働者がそれぞれの企業内で団結 することであった。
 それでも、終戦直後の時期の戦闘的な運動は、企業ごとにつくられた組合組織をたちまち 産業別に結集し、産業別統一労働協約を勝ちとることをめざした。こうして企業別組織とし て出発した戦後の組合運動は、闘いを通じて産業別組織へと脱皮しつつあった。しかしこう した運動は、占領軍とその支援のもとに再建されつつあった日本独占資本の攻撃をうけて、 壊滅的打撃をこうむり、産業別統一労働協約は資本の手で破棄された。こうしたなかで企業 別につくられた組合の方針は、産業別団結よりも企業一家的な団結を優先させるものへと傲 斜し、ついに企業別組織がわが国に定着することになったのである。
 日本の産業別労働組合 日本の産業別組合は、もともと個人加入の単一組織として結成された欧米の 産業別組合と違って、企業別組合が産業別に結集して連合体を作っているも のが多く、産業別労働組合としての組織的性格や機能を十分に備えていると はいえない。日本の産業別労働組合には、その実態からみて、三つの形がある。(1)海員組合 に代表される産業別の単一組織。全国金属や全造船機械、全港湾なども、産業別単一体を組 織の基本としている。単位組合の名称は〇〇労組〇〇支部(分会)である。(2)私鉄総連、合 化労連、化学同盟、鉄鋼労連などの連合体。単位組合の名称は〇〇労連〇〇労組となる。(3) 前記の連合体より一層ゆるやかなもの。たとえば全国石油産業労働組合協議会など。
 日本の産業別組合は西ドイツ、フランス、イタリアなどが大産業別の形をとっているのに 対して、小産別であり、そのため、全交運、公労協、化労協、中央金属労協、マスコミ共闘 など、大産業別の協議会や共闘組織をつくっている。
 全国組織 産業別労働組合の全国的な結集体として、日本には総評、同盟、新産別がある。
ゆるやかな連絡協議体である中立労連もふくめて、この四つが日本の全国的中 央組織である。
 総評は四三四万人、組織労働者の三五・九%を結集(七三年)する日本最大の組織で、五〇 年七月に結成された。結成当時は、国際自由労連(アメリカの世界戦略にもとづき世界労連を分 裂して作られた反社会主義・階級協調の国際組織) に一括加入を指向するなどの弱点を持ってい たが、翌年にはこれを否定し、また平和四原則 (全面講和、中立堅持、軍事基地不提供、再軍備 反対)を打ちだし、五一年の破防法反対闘争、炭労・電産の長期スト、五五年から始まる春 闘、五八年の勤評・警職法闘争、六○年の安保・三池闘争に積極的役割を果し、現在では日 本労働組合運動の主流となっている。
 同盟は一九六四年、総評の平和四原則、炭労・電産の長期ストに反対した四単産によって 結成された全労会議、総評結成に反対した総同盟右派と、全官公が合体してつくられた組織 で、組合員は二二七万人で組織労働者の一八・八%を組織している。階級協調を旗印にして おり、労働者の闘いに、しばしば水をかける役割を果している。
 中立労連は五六年、ゆるやかな連絡協議体として結成され、一三七万人(一一・三%)を組 織して、総評とともに春闘共闘を構成している。
 新産別は他の三つの組織に比べ圧倒的に小さく(七万人、○・六%)、影響力は一部の地方、 業種に限られている。
 日本の全国的中央組織は、欧米のそれと比べれば、指導的役割という点などで、まだまだ 多くの不十分さをもっている。
 地方組織 都道府県段階では、総評につらなるものとして県評(県労、地評)が、同盟の地 方組織として地方同盟がある。同じく、市町村段階には、地区労、地区同盟がある。
 これらの地方組織は、未組織労働者の組織化、春闘をはじめとする経済闘争、メーデーや 選挙、政治的課題への取り組みなど多面的な活動を行っているが、フランスやイタリアの地 域組織が、全国的中央組織を支える横の組織として、縦の組織である産業別組織に匹敵する 地位を占めているのに比べれば、まだまだ立ち遅れている。
   企業別と業種別組織 大企業の労働組合で、各工場(事業所)ごとに単位組合があり、これが 企業内で連合組織を作っているのが企業連である。企業連は工場ごとの組織が、同一の経営 者に対抗し、交渉する必要から生れたものだが、工場ごとの交渉権が形骸化したり、産業や 地域の組織と緊密な連携を欠くことがないよう、注意する必要がある。
 同一業種の企業別組合が連合して協議会や共闘組織として組織しているのが業種別組織で ある。同業種内では仕事の内容や労働条件が似かよっており、共同して労働条件の水準を引 上げていくなどの点で、積極的な役割を果すことができる。しかし、独占資本の集中、支配 が強まっているなかでは、業種内だけで解決しえない課題も多く、産業別組織を基本とし、 地域の共闘を重視していくことが大切である。

    

3 企業別組合の弱点の克服と産業別組織の強化


 このように、日本の労働組合組織には、多く種類があるが、構成単位となっているのは、 企業別組合である。だから、産業別組織の強化を基本に、企業別組織の弱点を克服していく ことが、組織強化の中心にすわらなければならない。
 企業別組合の弱点とその克服  企業別組合は、臨時工、社外工、パート・タイマーなどを除いた、本雇 いの従業員だけでつくられているところから、企業意識にとらわれやす く、組合の活動は企業内に封じこめられ、その組織は企業とゆ着しやす い。それはまた、本雇いの従業員の全員組織で、いったん組合ができてしまえば、そのあと は組合員獲得のための運動をとくに意識的に行わなくても、企業の従業員の数に応じて組合 員が自動的にふえてゆくので、意識的な教宣・組織の活動が軽視され、その結果、組合員の 団結の意識がうすくなりがちである。
 だからといって労働組合の企業内組織を一般的に否認する必要はない。直接、資本の搾取 をうける企業内で、これと対決する闘争の組織が、労働運動にとって不可欠な重要性をもっ ていることは自明のことである。フランスやイタリアなど西欧の労働組合でも、経営内での 労働組合組織の確立強化が重視されていることは、すでにみたとおりである。必要なことは、 組織いじりではなく、企業内組合の弱点を克服して階級的な団結の意識と、全産業的な闘い に立ち上がるための要求と闘争・組織の形態を発展させることである。
 第一に必要なことは、職場を基礎として大衆討議を徹底させ、職場での活動を組合活動の 基本におくことである。要求のたて方も企業の都合からはじめるのではなくて、臨時工や社 外工、パート・タイマーも含む職場の労働者の労働と生活から出発し、職場から会社にむけ で日常的な要求をぶつけ、既得権を拡大することである。
 第二に、産業別組織の活動に積極的に参加することによって、企業内に閉じこもってもの をみるという狭い視野からぬけだして、同じような労働条件、共通の要求をもつ産業別の闘 争を強化することである。
 第三に、地域共闘の重視である。おなじ地域にあって、共通の生活基盤をもつ、同種のあ るいは異種の産業の労働者と大衆的な交流を強め、地域の共通要求をつくりあげ、相互に援 助しあって闘いを企業の外に発展させることである。
 産業別統一闘争と地域共闘の発展の上に、全国的な階級闘争が展開される。
 なぜ産別組織が基本となるのか  企業別組合の弱点を克服するということは、とりもなおさず産業別組織 を強化することである。そこでなぜ産業別組織が、階級的大衆組織とし て発展しつつある現代の労働組合にとって、基本となる組織形態なのか を整理しておこう。
 現代資本主主義の条件 その理由は、現代の資本主義の特徴をみれば容易に理解される。第 一に、現代の資本主義では各産業を支配する少数の巨大資本が、政府の権力と政策を利用し て、労働者の全体に対する搾取を強めている。資本家階級の側は、独占の利益という一点か ら、職業や企業の枠にとらわれず労働者の全体を見ているのである。第二に、生産技術の高 度化と大規模生産によって、職業間の区別や熟練、未熟練の差異が減少してきている。社会 的分業が発達し、生産工程の細分化が進み、資格制度や職務・職能給などにより新たな人為 的な差別がもち込まれているにもかかわらず、労働者各層の立場には、労働の形態のうえで も、収入の上でも大きなへだたりはなくなっている。第三に、資本家が労働者を管理し、搾 取する方法にも、各産業で独占集中が進み、系列支配が強められるなかで、共通した方法が 採用されるようになっている。
 産業別組織の必要性 こうしたなかで、労働組合の側が、同じ産業のなかに、いくつもの職 業別労働組合や企業別組合が分立する状態にとどまっているとすれば、資本家の組織に対し て著しく立ち遅れることになる。同一産業に働く労働者を、熟練・未熟練、職業・職種の別 なく、企業の枠を乗り越えて単一の労働組合に結集する産業別労働組合こそが、各産業を支 配して一国の経済・政治を動かす独占の力に対抗できる組織形態なのである。
 労働者がいつまでも賃金制度のもとで搾取される立場に満足していないことは、社会主義 を実現したソ連や中国の例を見ても、また今のヨーロッパの労働組合運動の傾向をみても明 らかである。単なる労働条件の維持・改善というだけの目的に対しても、職種や企業に限ら れた組織と政策では、十分な成果をあげることはできない。まして社会体制の変革という目 的に対しては、分散・孤立した組織が何千何万あっても役に立たない。だから労働者を資本 の搾取から解放するという大きな目的のためにはもちろんのこと、労働条件の維持・改善と いう目前の利益のためにも、労働者を階級的に総結集して、資本家階級に対決する組織=産 業別労働組合が必要なのである。
 労働組合は、産業別の組織形態をとることによって、はじめて運動の大衆性、階級性を大 きく発展させ、労働者階級の大衆組織として、政治の革新をも追求する段階に到達できるの である。

  【設 問】
 1 日本と欧米諸国の労働組合では、組織形態にどんな違いがあるか。
 2 日本の労働組合の組織はどうなっているか。あなたの地域ではどうか。
 3 企業別組合には、どんな弱点があるか。
 4 日本の労働組合が直面している組織強化の課題には、どんなものがあるか。
 5 なぜ、産業別労働組合が、今日の労働組合の基本的な組織形態なのか。

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