第三課 今日の日本経済と独占資本
1 独占資本の経済的・政治的支配
2 独占資本の産業支配と高利潤
3 独占奉仕の「高度経済成長」政策
4 インフレ政策と物価高騰
5 政府・独占の賃金・雇用政策
6 資本の「合理化」政策
7 「高度成長」政策の帰結と資本主義の危機の深まり
第三課 今日の日本経済と独占資本
l 独占資本の経済的・政治的支配
大企業優先の政治・経済
私たちをとりまいている政治・経済をみると、そこには巨大な独占資本の
力が隅々まではたらいていて、自民党政府がこの独占資本の利益をまもる
政策をすすめていることが歴然としている。
独占資本と自民党 独占資本が、自民党政府を自分の都合のいいように、思いのままに動か
すことのできるしくみが、人脈、金脈、国の政策作成など、あらゆる面でつくりあげられて
いる。人脈をたとえば姻戚関係でみると、巨大企業の最高経営者三一六家族と一親等から四
親等までの関係にある現・旧の国会議員や高級官僚は六百二十余人にもなる(一九六三年)。
金脈の中心は政治献金である。自民党の政治資金の九〇%は、大企業からの政治資金でまか
なわれており、公表されただけでも一九〇億円(一九七四年)で、実際にはこれをはるかに上
回る資金が、独占資本から自民党に流れこんでいることは常識になっている。「料亭政治」
や絶えることのない汚職事件などは、こうした財・政界のみにくい結びつきから生まれてい
る。独占資本は、経済団体連合会(経団連)、日本経営者団体連盟(日経連)、経済同友会、
日本商工会議所などの資本家団体をつくっているが、なかでも経団連は「陰の内閣」といわ
れ、数十の委員会を設置し、強大な事務局をもって、国の基本的具体的政策を立案している。
一九六六年には、事実上これら四団体を結集する産業問題研究会が組織された。独占資本の
代表は各省の顧問や参与、首相や各大臣の諮問機関である各種審議会、国家公安委員会に入
り、大きな発言権を確保している。
国の財政政策 こうしたことから、たとえば国の財政政策をみると、労働者や勤労国民から
は高い税金をとりながら、大企業には「租税特別措置」などといって、さまざまな減免税の
措置がとられていたり、運輪・通信など国が経営する公共事業の料金も、一般国民がこれを
使う場合よりも大企業が使う場合の方が大幅に低くなっていて、大企業優先になっている。
社会保障や社会福祉は劣悪な状態にもかかわらず、勤労国民の収入から差しひかれた社会保
険の積立て金は、あげて、大資本のための産業基盤整備や設備投資の資金にまわされ、これ
ら「財政投融資」は毎年巨額にのぼり、国民経済をますますゆがんだものとさせている。こ
うした大企業優先の政策のために国の財政が苦しくなると、こんどは勤労者への現金を重く
し、「受益者負担」をとなえて社会保険料を引上げ、さらに巨額の赤字国債発行で国民の税
金を先取りし、インフレを高進させてかえりみないといったありさまである。
生産と市場の支配 また各産業の状況をみても、独占資本・大企業が生産と市場を支配し、
大企業の生産体制にあわせて、中小企業を系列下請企業として支配し、合理化と下請単価の
切り下げを強要し、労働者に低賃金と劣悪な労働条件を押しつけている。その一方で、独占
大企業は、独占価格のつり上げで超過利潤を手に入れ、自分の市場支配の邪魔になる中小企
業は倒産においこんで、整理陶汰を強行し、政府の雇用政策・労働政策もつかって中小零細
企業の賃金をおさえ、その低賃金のうえに大企業の賃金水準も引き下げる。そして、政府と
ともに所得政策をとり、労働者の賃金闘争を分断しおさえこむという大がかりなたくらみを
強行しようとしている。
海外への資本投下 こうした大企業優先の政治・経済のからくりを通じて、独占資本の手もとには
膨大な金が集まってくるが、一方、労働者と勤労国民の購買力はいっこうに豊
かにならない。その結果、独占資本が巨額の資本を投資しても、もはや正常な
利益をあげることができなくなり、投資先のない遊んでいる状態の資本が生じてくる。これ
が「資本の過剰」現象であるが、他方、「後進国」ではまだ資本が少なく、賃金や原料単価
が安いため、利潤率は特別に高い。そこで独占的高利潤を追い求めている独占資本は、必然
的に巨額な「過剰資本」を海外、とくに後進国にむけて輸出するようになる。
独占資本は資本輸出によって彪大な利潤を手にいれるだけでなく、相手に貸した金で自分
の輪出する商品を割高に買う義務を負わせたり、資本の輪出とひきかえに石油や鉱山の採掘
利益や、安い原材料の独占などの権益を手に入れたりして、「後進国」の人民を搾りあげる
のである。
日本企業の海外投資の推移をみると、投資許可額の年平均伸び率は一九六三〜六七年の二
割台から七一〜七四年には四割台へと倍増しており、独占優先の政治・経済のしくみが矛盾
を深めるにつれて、海外進出への方向が急速に強まっていることがわかる。
軍国主義とファシズム 独占資本の国の内外における支配と搾取は、必然的に労働者と勤労国民の反
撃を呼びおこすことになり、また、海外の権益をめぐる資本主義強国同士の
争いを強めるし、自国の国民と資源を収奪される植民地・従属国の民族的自
覚と闘いを呼びおこすことになる。
だから独占資本の経済的・政治的支配は、戦時と平時とを問わず軍国主義の強化を必要と
し、民主主義の形骸化と破壊を推し進めるものとなる。ファシズムというのは、独占資本主
義の矛盾が深まるなかで、形式的にもせよ、民主主義的な方法では支配を維持することがで
きなくなって、独占資本が反対する全ての勢力を暴力的・専制的に押えつける政治支配の形
態である。今日、日本の民主主義は憲法のうえではりっばなことが書かれていても、騒乱予
備罪や保安処分などを含む刑法改悪、議会制民主主義を破壊する小選挙区制などがたくらま
れ、経済的な矛盾の深まりと独占支配の強化のなかで、現実には、しだいに形骸化されよう
としている。その上に、窓法そのものの改悪による民主主義の破壊が画策されているが、こ
れは、独占資本の本質に根ざすものである。
2 独占資本の産業支配と高利潤
六大グループとその産業支配 日本のどの産業をみても、三菱とか三井とか住友といった名前をつけた
企業が、その産業の生産の中心になっているが、このように、日本の経
済は、六つの巨大な独占グループによって支配されているといっても過
言ではない。即ち、三菱、三井、住友、富士、第一勧銀、三和の六大銀行をそれぞれの中心
として形成された六大グループがそれである。この六大グループがいかに巨大な独占力をも
っているかは、日本の主要な企業のほとんどを集めている東京証券取引所第一部上場企業六
二一社(一九六七年、金融機関を除く)のうち四〇七社、使用総資本のうちの六七・二%を、
直接にその支配下においていることを見れば明白である。日本の代表的な巨大企業のほとん
どはこの六大グループに属しているのである。現在わが国の産業は、この六大グループに、
鉄鋼、電力、ガスおよび日立・日産の独占体、それに国鉄、電々公社などの国営巨大企業を
くわえたものによって、完全に支配されているといってよい。
六大グループの日本経済に占める比重の高さは、各企業集団の社長会に属する一七四社だ
けで、わが国の会社全体の資本金のうち二一・九%、総資産の三・七%を担っているほど
である(一九七四年)。
独占資本はいろいろな方法で多くの企業を支配する。たとえば「持株支配」(親会社が子会
社の、子会社が孫会社の株式をもつことによって支配するやり方。これだとごくわずかの株式で多くの
企業を支配できる)、親会社からの「重役派遣」「資金の貸付け」などがそのおもなものであ
る。さらに独占体の巨大な支配の網の目にくみこまれた巨大企業は、互いに「株式の持合い」
や「人的結合」つまり重役派遣などによって、ますます密接に結合する。たとえば三菱グル
ープにくみこまれた三菱系諸会社、三菱銀行、三菱重工、三菱電機、三菱化成、日本郵船な
ど四〇あまりの大企業はそのようにしてつながっている。
独占の高利潤・高蓄積 独占資本は、その政治・経済に対する支配力を駆使して、極めて高い独占的
高利潤を手に入れることができる。国内におけるその主なやり方は次のよう
なものである。
第一、独占資本は、さまざまな「合理化」・搾取強化の方法を駁使して、生産面で労働者
を徹底的にしぼり上げる。そのうえ、独占資本はすぐれた放校設備や労働力を独占して、中
小資本より高い労働生産性を確保しており、それによって長期にわたって特別の利潤を手に
入れることができる。
第二、独占資本は原料資源と生産、市場にたいする独占的な支配力によって競争を制限し、
その商品の価格を本来の価格よりも高くつり上げておくことができる(労働生産性の向上によ
り本来の価格が下がっているのに、独占価格を下げないという形をとる場合もある)。これが独占価
格である。
第三、独占資本はその支配力にものをいわせて中小企業、農民などの生産物を買い叩き、
流通面でのひどい搾取をおこなう。たとえば、親会社がつくれば一〇万円かかるものを、中
小企業に七万円、五万円といったひどい下請単価でおしつけ、いながらにして法外な利潤を
手に入れる。中小企業の労働者は、自分の企業の資本家に搾取されるだけでなく、自分の会
社の資本家を経由して、独占資本によっても、ものすごい搾取をうけている。これがいわゆ
る中小企業労働者の「二重の搾取」で、中小企業労働者の賃金が大企業に比べて低い原因の
一つはこの点にあるといってよい。
このように中小資本家層は独占の高利潤を可能にする条件の一つとして独占資本によって
支配されており、また国の財政や金融面でも独占資本と比べて不利な立場に立たされており、
独占資本家層との矛盾を深めている。
第四に、独占資本は、国家による補助金、融資、税金、生産物の購入等をつうじて、つま
り国家の権力としくみを利用して莫大な利潤をあげる。
こうして、独占資本・大企業がいかに大きな利益をあげ、蓄積を拡大してきたかは次ペー
ジのグラフにも明確にされている。資本金一○億円以上の企業は一九五六年の二一七社から
七一年には一、二五二社に拡大し、純利益は約一○倍に、資本金その他の内部留保も二兆円
から二〇兆円と、一〇倍になっている。
また、国税庁の法人企業の申告所得をみると、上位一○社の申告所得の合計額は、一九五
五年の三七七億円から一九六五年には二、〇五二億円、一九七四年には七、八七〇億円と一
〇年間で五・四倍、二〇年で二〇・八倍にも急増している。これら上位一○社には、三菱・
富士・住友・第一勧銀・三和などの大銀行や日立・東芝・三菱重工・松下電器・トヨタ・日
産・新日鉄などの独占大企業が名をつらねている。
第二次大戦の結果と独占の復活強化 ところで、三菱とか住友
・三井とかいったいまの
日本の経済を支配してい
る独占資本は、すでに戦前から日本経済を支配
し、労働者と勤労国民の生活にはかりしれない
犠牲を強要してきた。すでにのべたようにこれ
ら独占資本の経済支配は、恐慌などの深刻な矛
盾のうちに社会をつきおとし、そのなかから一
層の高利潤を追求して、海外へむかって侵略を
すすめる。とりわけ好戦的で侵略的な日本の財
閥=独占資本が、軍閥勢力と結んで、第二次世
界大戦の惨禍に日本とアジアを引きこんでいっ
たことは、独占資本の政治経済支配のゆきつく
ところがどのようなものかを、日本と世界の勤
労国民に身をもって体験させた。
だからこそ、その反省の上にたって、戦後日
本の出発にあたっては、一握りの独占による横暴なファッショ支配を排除する民主主義的権
利の確立と、独占集中への一定の規制を定めて、財閥による政治経済の支配が、ふたたぴ日
本を危険な方向に押しやるのをさけようとしたのである。それは国民大衆の求めるところで
もあった。戦後アメリカ占領軍の手で行われた過度経済力集中排除法による財閥=独占資本
の解体、独占禁止法(独禁法)を通じての独占集中の規制は、独占の横暴を抑え経済民主主義
の確保をはかろうとしたものであった。
しかし、資本主義の機構を維持し、利潤追求を基本とした経済のあり方をとる限り、強力
な資本が弱体な資本をふみたおし、併呑し、系列化するなどして、巨大な独占体を形成する
のをさけることはできない。強力な資本の圧力を受けて、独禁法体制もその現実的な効力の
発揮をさまたげられ、独占集中は黙認され、その実績の積み上げのうえに独禁法のなしくず
し改悪がはかられてきた。しかも財閥解体・独禁法をつくったアメリカ占領軍の日本に対す
る政策は、日本の独占資本々、社会主義と民族解放勢力に対する足場として復活させる方向
にかわってきた。こうなると、一たび解体された三菱・住友・三井など旧財閥も、三菱重工
合併に典型的にみられるように、再び結合し、急速に復活してきた。こうして今日では戦前
の独占支配以上に、広範囲で強力な独占資本による政治経済の支配が、国際的な独占資本と
の結合のもとで行われることになったのである。
3 独占奉仕の「高度経済成長」政策
高度経済成長政策とは 前節に述べた戦後日本の独占資本の復活強化と高利潤・高蓄積の体制は一
九五五年からの高度経済成長、とくに一九六〇年からの池田自民党内閣の
「所得倍増」と銘うった高度経済成長政策以降、国家の機構と機能を全面
的に直接的に利用しながらつくり上げられたものであった。
従って、いま、私たちがおかれている情勢をつかみ、独占支配と闘っていくためには、こ
の高度経済成長政策がどのようなものであり、日本の独占資本がそれによってどんな矛盾を
深め、労働者と勤労国民の生活に犠牲を強要してきたかを、みておくことが必要である。
第二課の恐慌のところで学んだとおり、「生産と消費の矛盾」は資本主義にとってさける
ことのできない矛盾である。しかし、一方には、この矛盾を解決し、恐慌などない社会主義
の世界体制があり、他方には、労働者を中心とする民主的勢力の力の増大があるという戦後
の条件のもとでは、大規模な恐慌を引き起すことは、資本主義の命とりになりかねない大問
題であった。そこで資本主義諸国は、拡大する生産力に追いつかない国民の購買力を補う手
段として、インフレーション政策をテコに、人為的なやり方で「購買力」をつくりだし、生
産と消費の矛盾が爆発するのをやわらげ、引きのばす経済政策を採用した。これが「高度経
済成長」政策であるが、それは大別して次の三つの内容をもっている。しかし「高度経済成
長」政策が、生産と消費の矛盾を解決することはできず、結局、一層深刻な形で矛盾を累積
させるものでしかなかったことは、後に見るとおりである。
設備投資と公共投資 その第一は、国家独占資本主義=政府・独占による、ものすごいインフレ政
策、そのもとでのすさまじい資本家の設備投資、政府や自治体の公共投資の
強行である。しかし、勤労国民の購買力をふやすのではなくて、資本家の生
産手段に対する購買力に依拠し、「設備投資が設備投資を呼ぶ」という形ですすめられた生
産拡大は、結局のところ最終消費(生活手段の消費)に依存する製品の増大となり、低い勤労
国民の購買力との矛盾を引き起す。独占資本は、この矛盾を金融機関を総動員した割賦販売
制度(月賦販売など)によって、強引に最終消費市場の拡大をはかることできりぬけようとす
る。しかし、月賦という賃金収入を先取りする形での購買力の拡大は見せかけのものであり、
生産と消費の矛盾が表面化するのは、さけられないことであった。高度成長の主役はこのイ
ンフレ政策による購買力の拡大であり、これが物価上昇と公害の最大の原因なのである。
輸出の強化 高度経済成長政策の第三のなかみ、つまり第二の市場(購買力)拡大の方法
は、輸出の強化である。わが国経済の重要不可欠な条件の一つは、常識的な
ことだが、わが国には資源が乏しく、重要な原料、燃料、さらには食糧の多くを海外に仰が
ざるをえないことである。当然ながら高度経済成長の下での重化学工業化は、わが国経済の
海外原燃料への依存度を高めざるをえないし、海外の原燃料を輸入するためにはそれを可能
にする外貨(ドル)を持っていなければならず、そのためにも輸出の拡大・強化が必要とな
る。この事情が市場(購買力)拡大という事情と重なりあって輸出に拍車をかけたのである。
こうして輸出競争にうちかつためのコスト引下げ、つまり「合理化」が至上命令になる。
輸出強化、そのための「合理化」、さらに自由化が第二の政策のなかみである。新技術採用、
作業の単純化、スピードアップと結びついた人べらし、労働強化、能力主義管理、中高年熟
練労働力をスクラップ化し、農漁村からの低賃金労働者を独占大企業に配置する労働力流動
化政策、賃金統制につながるニセ最賃法の強化など、多くの政策がとられる。そうして海外
原燃料の低い値段での長期・安定した確保という独占資本の要求が、海外原燃料資源確保の
ための資本輸出(工場進出)、その結果生ずる海外権益の防衛を名目とする海外諸国(具体的に
はアジア)への政治的・軍事的介入、進出になるという危険はたいへん大きい。「帝国主義の
復活」とはまさにこのような事態をさしている。
経済の軍事化 高度経済成長政策の第三のなかみは、インフレ政策の一部といってもよ
いが、逐年その膨張ぶりを知られている、経済の軍事化を通じての購買力
の拡大である。
注意を要するのは、この経済の軍事化が高度経済成長と日米安保体制の重要な結び目にな
っている点である。安保体制の軍事的・経済的側面は日本を「アジアの兵器廠」にすること
だといわれている。現代の世界では、社会主義を先頭とする革新勢力が、アメリカを先頭と
する帝国主義、独占資本の勢力と世界的規模でいろいろな形で闘っている。アジアの社会主
義諸国や民族解放を求めて闘っている国ぐにをとり囲んでいる、いわば前線にあたる諸国、
つまり韓国、台湾、フィリピン、タイ、インドネシアなど帝国主義陣営に属する諸国が、革
新勢力と対抗できるためには、近代兵器とそれなりの経済開発が必要である。それをアメリ
カに肩代りして、後方基地として日本がおしすすめることが、安保体制の経済的側面といわ
れているのである。そうしてこれら諸国への近代兵器の補給(輸出)は、ほかならぬ高度経済
成長政策の一環としての「国際経済協力」「後進国開発援助」という名目の資本輪出によっ
て行われるのである。
アメリカと密接な関係にある日本の独占資本が、資本主義体制防衛策としての高度経済成
長政策を強引におしすすめることが、日本の「アジアにおける兵器廠」化、安保体制の経済
的側面をささえているのである。まさに高度経済成長は、安保体制の経済的土台にはかなら
ない。
4 インフレ政策と物価高騰
高度経済成長政策は自民党政府の彪大な財政支出と、銀行からの莫大な設備投資資金供給
(市中銀行は預金の限度をこえた貸付けを日銀からの借入れで行なうので、これも通貨増発をもたらす)
をテコとしてすすめられた。
さらに国の財政をみても通常の税収だけではまかない切れなくなって、赤字国債の発行が
一九六五年からはじまったが一九七五年六月にはその累積は一二兆円にも達した。それらは
日銀にもちこまれ、それに見合う通貨の供給となって日銀券増発を加速させた。
こうして、独占への彪大な資金供給をつづけた結果、通貨=日銀券発行高は実質国民総生
産の増大のテンポを大きく上回って増えつづけ、一九六〇年を一〇〇とすると七三年には九
・四倍にもなった。これは鉱工業生産の同じ期間の増加の約四・六倍を、二倍以上も上回っ
ており、それを埋め合わせるように、物価が二・二倍になっている。こうした通貨・日銀券
の過剰な供給(インフレーション)が、通貨の価値の低落をもたらし、激しい物価上昇をまね
いたのである。
政府や資本家はインフレ=物価上昇について「コスト・インフレ」論をとなえて、労働者
の大幅賃上げで人件費コス卜の上昇がおこり、それが物価上昇をもたらしたとか、あるいは
「ディマンド(需要)・インフレ」論を主張して、労働者の収入増加で需要が拡大し、価格を
つりあげたとかいっている。
これらのごまかしのインフレ論にだまされないようにインフレの本質を正しくつかんでお
くことが必要である。
インフレーションとは インフレーションとは金(キン)のうらづけのない不換紙幣の増発が、貨幣の
流通必要量をこえて行われ、それによって紙幣の価値が下落して、名目的な
物価の騰貴が引きおこされることをいう。
流通手段としての貨幣がどのくらい必要かは、一定期間に流通する商品の価格の総額とそ
の期間に同じ貨幣が何度つかわれるかの流通速度によって決まる。一定期間の商品総額をそ
の間の貨幣派遣回数で割った量だけあればよい。そうすれば、貨幣の側から物価変動の要因
などはでてこないが、それをこえて不換紙幣が発行されれば、金とちがって紙幣自体は価値
をもたないから、一枚の紙幣があらわす価値は、必要量をこえて増発された割合だけ減少し
て流通することになり、商品の価値は変らないのに、紙幣の単位であらわされる価格は、紙
幣の減価に反比例して増加することになる。こうした流通必要量をこえる不換紙幣の増発が
インフレ政策であり、物価高騰をもたらすのである。
インフレーションの原因 ではなぜそのような不換紙幣の増発が行われるのだろうか。紙幣発行の権
限をもつのは政府と発券銀行であるから、インフレーションの原因は、政
府が租税収入などの歳入以上に必要な支出を、紙幣の増発によってまかな
おうとするところにある。例えば、政府が高度経済成長政策をとり、独占の設備投資や海外
進出のために、財政投融資で直接・間接に援助し、優遇措置を与えようとする場合、その支
出は赤字国債の発行とか、国庫債務負担行為とか、さまざまの名目による紙幣増発でまかな
われるのである。
また、海外進出と関連して、軍事力の強化をはかったり、戦争政策をすすめたり、不況・
恐慌から独占の利益を守るための景気浮揚策を、政府資金で行ったりするときは、不換紙幣
増発が行われ、インフレーションが進行する。
こうして政策的インフレーションがおこされ、物価高騰がもたらされるとき、それによっ
て直接に被害をうけるのは、労働者と勤労国民諸階層である。賃金は実質的に減価し、貯蓄
もその価値が下がって実質的に奪われてしまう。
これに対して、資本の側は実質的な賃下げで人件費負担をへらし、借入金の負担を軽くす
ることになる。銀行は預金の実質的目減りで得をする。したがってインフレは、資本の偶に
は不当な利益を、労働者、勤労者には搾取の強化をもたらすのである。こうしてインフレの
高進は、経済の矛盾をますます激しくし、階級対立を激化させ、資本主義の基礎をほりくず
さずにはおかない。
独占価格 また、物価高騰の大きな原因には「独占価格」がある。生産と市場に対して支
配力をもつようになった独占資本は、大量生産と新技術の採用でより安いコス
トで生産できるようになっても、資本間で協定して価格を引き下げず、また生産過剰のとき
にも、談合して生産・在庫調整を行って価格を維持するばかりでなく、原材料費や賃金上昇
を口実に市場操作をしながら、一方的に価格つり上げを行うなどで、独占的高利潤を得よう
とする。鉄鋼や石油から化学、電機まで、つまり原材料から消費材までにわたって、こうし
た独占の市場支配力による、価格の一方的なつりあげが行われてきたことが、政府のインフ
レ政策の条件の下で、物価を押し上げる作用をしてきた。こうした独占価格のつりあげは、
独占禁止法の精神にも反することだが、独禁法のなしくずしをねらってきた政府・独占によ
って、法の適用はきわめてルーズにされ、独占価格が横行するようになった。これが今日の
高物価の大きな要因となっている。
5 政府独占の賃金・雇用政策
インフレの矛盾 いままでの説明から明らかなように、高度経済成長政策の下ではインフレと独
占価格のため、物価(消費者物価)が上がらざるをえない。これは第一に、国民
の生活を苦しくさせ、国民の政府・独占への怒りを大きくさせる。そこで政府
・独占はこの怒りから身をかわし、それをだれかになすりつけようと考える。第二に、物価
が上がると自国の商品は割高となり、逆に外国の商品は自動的に割安となる。その結果、割
高な日本の商品の輸出はむずかしくなり、割安な外国の商品の輸入がふえることになる。し
かし高度経済成長は輸出の拡大強化を絶対の条件としていた。したがって高度成長をつづけ
るためには、インフレと独占価格で物価が上がるなかで、どうやったら輪出を伸ばしつづけ
られるかという問題に答えなければならない。答えは二つしかない。一つは「合理化」、つ
まり物価が一割上がったら、「合理化」をうんときびしくしてコストを二割下げたらよいと
いうのである。最近まで日本の消費者物価はものすごく上がったが、輸出価格が外国にくら
べて上がっていなかったのは、ものすごい「合理化」のためである。もう一つは、消費者物
価が上がっても賃金を上げなければ、輸出価格は上げずにすむというやり方である。そして、
この中心となるのが所得政策と雇用(労働力)政策である。
所得政策 インフレ・物価対策として、賃金、利潤などの所得の形成過程に政府が直接介
入して、一定の方向に規制していく政策を所得政策という。実際には、利潤に
ついての規制はほとんど行われないので、国家権力による賃金抑制・凍結政策ということ
になる。具体的には生産性上昇率以下に賃金上昇率をおさえたり、一定の基準(ガイド・ポス
ト)などを示して賃上げを抑制したりすることである。
所得政策は資本家の賃金理論=生産性賃金諭を土台にしている。だから、所得政策の下で
は賃金を上げるための条件はただ一つ、以前よりどれだけ多く働いたか、どれだけ生産性を
上げたか、これだけである。働きぶりが同じなら賃金はけっして上げない。これが所得政策
の理論であり、その意味で明らかな賃金ストップ政策なのである。
所得政策のもう一つの特徴は、物価上昇の原因が、労働者の賃上げや農民と中小企業経営
者の合理化の不十分さにあるとし、ことに労働者の賃金闘争が物価上昇の中心的な原因であ
るとして、物価値上げの張本人である政府独占への国民の怒りを、労働者とくに組織労働者
に向けさせようとしている点である。「物価を抑制する」というスローガンの下に、このよ
うな宣伝が猛烈におこなわれているし、今後いっそうひどくなることはまちがいない。そう
いう意味で所得政策は思想攻撃でもあるのである。
雇用(労働力)政策 高度成長の過程では、低賃金で単純労働にたえる若年労働者や、婦人労働者
の独占への動員がすすめられた。
この政策は第一に、高度経済成長ではげしくなってきた人手不足を放置し
ておくと、賃金上昇が生じかねないので、これを抑えるために、低賃金労働者を農家や自営
業、あるいは中小企業から動員することで、とくに最近では中高年労働者の主婦をパート・
タイマーその他の形で動員することに主眼をおいている。
動員するというのは、これらの労働者を現在いるところから追い立てることであり、追い
立てるためには、現在のままでは農業や自営業、あるいは中小企業がやってゆけなくなるよ
うにすればいいわけだ。家庭主婦の場合は夫の賃金を抑えつけて、食えなくすればよいわけ
である。「農業基本法体制」「中小企業基本法体制」「職務・職能給」などはそのような役割
も果している。
いずれにせよ、低賃金労働者の大群が動員されるのだから、労働者としては一刻も早く真
の全国一律最低賃金制をかちとって、その害悪を防ぐ必要がある。
第二に動員した賃金労働者を、独占資本の利益にならないように流してしまってはなんに
もならないので、彼らを政府・独占の計画どおりに訓練・配置するため、失業保険、失対事
業等を改悪したり、職業安定所を強化して、実質上戦前の勤労動員署の機能をもたせようと
する政策がとられた。
いまこの労働力政策は、高度成長の破綻のなかで、失業保険法を改悪した雇用保険法を柱
にし、政府の職業紹介機構もつかって、独占のほしいままに、広域的に労働力の再配置をす
すめるのに、奉仕しようとしている。そのなかみは、能力主義に対応する資格制度を社会的
にも強化し、中高年層を差別しスクラップ化する、労働力の再配置のための職業訓練は企業
の負担でなく、雇用保険を通して国の負担でやれるようにする、さらに雇用調整給付金潮度
で、操短・帰休を国の負担で必要なときはいつでもやれるようにし、不況時における独占大
企業への国からの救済を制度化させるなどである。
失業保険は雇用保険への改悪によって、失業者の生活を保護するものから、独占資本本位
の労働力政策に奉仕するものに、ねらいをきりかえられたのである。
6 資本の「合理化」政策
現代の「合理化」の特徴 高度経済成長政策の第二のなかみは、激しい市場拡大のための競争に伴う
コスト切り下げであるが、ここから「合理化」の強行が至上命令となる。
「合理化」というのは独占資本主義のもとでの、搾取強化のための体系
化された方法である。第一次大戦後のドイツでドイツの資本家団体が、崩壊に瀕した資本主
義を建てなおす運動として「合理化」を提唱したのが、このことばの始まりであった。
現代の「合理化」の特徴は第一に、すでにのべたような国家独占資本主義の諸政策とかた
くむすびついて行われているということ、第二に、オートメーションを預点とする、新しい
技術の導入や機械化を土台にして、後述のIEや職務分析といったアメリカ生まれの作業管
理・労務管理の手法をつかっての、雇用人員の削減、労働強化のための「少数精鋭主義・能
力主義管理」が中心になっていること、第三に、労働者の抵抗をそらすための、HR、QC
運動、ZD(後で説明)とか「生産性向上運動」とむすびついて、労働組合を御用組合化す
るための「労使協調」思想などによる思想攻撃が、ますます重要な役割をもってきているこ
とである。
差別雇用と人べらし 企業の労務政策の根本は、どのようにして、少ない人数で、能率よく働く低
賃金労働力を確保するか、ということである。それと同時に、資本主義につ
きものの景気変動(好況・不況)に対応して、必要なときには、いつでも人
べらし合理化のできる雇用のしくみを重視している。「高度成長」の過程でも生産の拡大に
対応して、臨時工、社外工、パートタイマーなどの差別雇用の増大がみられたが、そのねら
いは、これを低賃金・労働強化のテコとするとともに、景気変動の「安全弁」とすることで
あった。生産の拡大が限界につきあたり、七四年、七五年と不況が深刻化するなかで、首切
り、人べらしの攻撃が合理化の中心となってきた。最初に首切りの対象とされたのは、臨時
工、社外工、パートタイマーの労働者、ついで中高年層や既婚・子持ちの婦人労働者であり、
「余剰人員」を現場から販売部門へ配転したり、関連企業へ出向させる、希望退職を募集す
る、さらには指名解雇や工場閉鎖と結びついた全員解雇の強行が拡大している。
資本のねらいは不況を一つのチャンスとして「ゼイ肉」をとり、少数精鋭主義・能力主義
管理の体制をつくり上げることであって、このことは、生産が回復しても本雇いはふやさず
時間外労働の増加や配転などで対応しようとしているところにはっきり現われている。
従って人べらしは、首を切られる労働者はもちろん、解雇をまぬがれた労働者にも、耐え
がたい「合理化」を押しつけるものであり、まさに「去るも地獄、残るも地獄」である。人
ベらし、首切りを許さない闘いは労働組合の最重要任務である。
賃金切下げの諸方法 「総額賃金」をおさえる制度 資本にとっての賃金の重要性は、なによりもコ
ストとしての賃金(商品一単位あたり賃金コス卜)なのであって、労働者の生活
ではない。
そこで、コストとしての賃金の総枠をおさえるための制度として推進されてきたのが、日
経連の「生産性基準原理」や日本生産性本部の「生産性成果分配制度」である。これらはい
ずれも生産性の上昇率以下に、賃金上昇率をおさえる制度である。これらの制度の背景とな
っている「生産性賃金論」の理論的ごまかしについてはすでにふれたが、注意する必要があ
るのは、このごまかし理論をもとにして「生産性向上にみあった賃金上昇」という資本家的
思想を労働者に注ぎこみ、労資協調意識と御用組合化を土台にして、労働者・労働組合を自
発的に「合理化」に協力させようとすることである。したがってそれは国家レベルでの「所
得政策」の推進と直結する関係にある。両方とも、「生産性成果分配」という考え方を労働
者に注ぎこみ、一方は国民としての「ナショナル・コンセンサス」(国民的合意)を、他方は
従業員としての「パートナー・シップ」(労使共同意識)を「自覚」させ、「自発的」に、国家
や資本の政策に協力させることをねらいとし、そのための御用組合をつくりだすことを最重
点課題としている。
ことに七五春闘では、独占とその政府は不況と経営危機の深刻化を宣伝し、失業者の増大
を背景に賃上げ一五%以下のガイドラインを設定し、政府の公務員労働者への賃上げ抑制や
雇用政策と結んで、春闘をガイドライン以下に抑えこんだ。これが実質的な所得政策へ一歩
をふみ出したものであることを、注意せねばならない。
「個別賃金」をおさえる制度 賃金を切り下げる方法として重要なのは、臨時工、社外工、
日雇、パート・タイマーなど、一般労働者より差別された労働者の低賃金を利用するやり方
である。これらの低賃金労働者=停滞的過剰人口を動員するこの方法は、国家独占資本主義
の労働力政策と一体のものである。
もう一つの重要な賃金切下げの方法は、賃金形態、賃金体系の利用、ことに職務・職能給
の利用である。
元来、職務給・職能給は低賃金・労働強化の体系である。職務給は「少数精鋭主義・能力
主義管理」のもとになっている職務分析・職務評価とむすびつけて、賃金を支払う方法であ
るが、そのもとでの一人あたりの作業量は、職務分析のさいの「時間・動作研究」(ストップ
・ウォッチでうんと高い能率をはかって標準を決める)などによって、最初からめいっばいに決め
られ、それにしたがって、きびしい定員制がしかれるから、ひどい労働強化になる。また、
職務が上の等級に上がらなければ賃金も本格的には上がらないから、個人的な賃金上昇をも
とめるみちは、基本的には職務の昇進による以外になくなる。職務の昇進は、組合がやって
くれるのではなく、きびしい定員制のもとで、資本家・職制による、企業への貢献度、企業
への忠誠心の査定によって決定される。「総額賃金」が抑制されているなかでは、個人的昇
給は、組合への団結による賃金闘争の強化によってではなく、逆に、組合活動に背をむけ、
企業・職制に忠誠を発揮して「自発的」に労働強化することで可能になるのだ、というよう
に多くの労働者が考えるようになる。こうして組合の団結が弱められるなかで、賃金闘争は
形ばかりになり、組合員全員の賃金が低下するようになる。
要するに、職務給のもとでは、多くの実例が示しているように団結の弱化と低賃金、労働
強化がもたらされる。それこそが、資本家のねらいなのである。職務給は「同一労働・同一
賃金」で「将来の希望がある」などという資本家の宣伝は、まったくのうそでしかない。
職能給や資格給はこの職務給を土台としたもので、職務給ほど厳密な職務分析や職務評価
をやらず、大まかに決められた職群や資格ごとに等級をもうけ、これと賃金を結びつけるも
ので、その本質は職務給と同じである。
労働時間を引きのばす諸方法
さいきんの「合理化」の中心は、次にのべる労働強化におかれているが、
それとならんで労働時間を引き延ばすための攻撃も強められていること
に注意する必要がある。鉄鋼(新日鉄の四直三交替制(一組あたり以前よ
り少ない人員で、一日の実働時間は一五分引き延ばされる)などに代表される交替制動務の強化や、
工場の門にあったタイム・レコーダーを職場にうつす「現場到着制」、あるいは年次有給休
暇や生理休暇、産前産後の休暇などを実際上とりにくくする方法など、めだたない形での労
働時間延長が各産業でおこなわれている。さいきんの特徴としては、週五日制動務がふえて
いることと関連して、「企業内教育」や「自主管理活動」などの名目で、本来は労働時間内
にやるべき「職業教育」や「作業内容の改善の検討」などを、時間外のグループ活動として
事実上強制したり、また週休二日のうち一日は、会社のレクリエーション活動にかりだすな
ど、「余暇管理」という名のもとに、労働者の自由時間にくいこむ「時間管理」強化の「合
理化」がめだっている。
労働強化のための諸方法 労働強化の基本は、職務分析と「時間・動作研究」などのいろいろな方法
によって標準作業量を引き上げ、単位労働時間あたりの労働密度を高める
ことにある。これをもとにして機械やコンペアのスピード・アップとか、
機械の持ち台数の増加、連続作業、交替制強化による人べらし、定員の縮小といった労働強
化がおこなわれ、これに職制の監視や査定の強化、あるいは能率給、職務・職能給による刺
激がつけくわわる、ということになる。
職務分析とは、資本家の経営目的にそって資本家の搾取体系に都合のよいように職務の内
容をきめ(職務の確立・標準化)、その職務の遂行に必要な限りの能力(職務遂行能力)と、仕
事量(一人あたりの職務遂行量)つまり標準作業量と定員を決める方法のことである。標準作
業量は「時間・動作研究」などの「科学的方法」によって決めるのだが、これらはいずれも
客観的科学的基準があるかのようなみせかけのもとに、実際は測定者の(つまり資本家の)主
観的判断によって「標準」が決定される結果、「標準」はよく誤解されるような「平均」で
はなく、じつはきわめて高い労働強度を示すことになり、極端な労働強化が押しつけられる
ことになるのである。
さいきんの労働強化のための「合理化」の中心は、IE(インダストリアル・エンジニアリン
グ、経営工学)と「少数精鋭主義・能力主義管理」である。 IEは、右の職務分析による標
準作業量の設定の例のように、「生産管理」「販売管理」「財務管理」など経営の全面にわた
つて、工学的な手法で総合的にやることを特徴とする「合理化」の方法である。
また「少数精鋭主義・能力主義管理」は、「少数にすればみな精鋭になりうる」(日経連『能
力主義管理』)という、日経連のろこつな表現にも現われているように、一人あたり仕事量
の増加によって、少数化と労働強化をはかる管理法である。この方法はIE的な面も含んで
いるが、その最大の特徴はQCサークルやZDグループなどの「小集団主義」による「目標
到達のための自己啓発」=「目標管理」の重視である。ここでいう目標とは「経営目標」=
利潤追求・搾取強化の目標にほかならない。
このような目標を達成するための「自己啓発」「自主参加」による労働強化(つまり「やる
気」をおこさせての労働強化)を効果的におこなうために、「グループ制」「タスク・フォース
制」(小人数で仕事を固定せず機動的に処理していく労働強化制)や「職務拡大」、多能工化など
の方法がすすめられ、またそのための教育訓練として、これまでの「職場外訓練」だけでな
く、「自己啓発」運動や日常業務を通じての「職場訓練」(O・J・T) が重点的に行われる。
このようにして、少数化した労働者の職務遂行能力を日常的にレベル・アップし、極度の労
働強化をはかろうとするのが「少数精鋭主義・能力主義管理」の本質なのである。
このような小集団主義による能力主義管理と人べらし「合理化」は、七四年以降の不況の
深刻化、低成長経済への経営体制の対応のなかで、下請ぐるみでさらに組織的にすすめられ
ている。
御用組合化・分裂と思想攻撃 さいきんの「合理化」の大きな特徴は、「労使協調思想」や「生産性向
上運動」による思想攻撃によって、労働者を「自発的」に労働強化に
「参加」させ、また労働組合をたんに「闘わない組合」に変えるだけで
なく、積極的に組合員を労働強化に協力するようかりたてる組織に変える、つまり組合を会
社の経営管理機構に「統合」し、「労働組合課」に変えてしまおうとねらっていることであ
る。同時に、組織まるがかえの御用化がうまくいかない場合には、活動家の暴力的排除、警
察権力や暴力ガードマンを導入しての組織分裂を、強行してくることも多い。
いま「合理化」による労働強化、職場の差別支配、労務管理の強化、作業の単調労働化な
どによって、「職場の砂漠化」といわれるような状況が広がっているが、このようななかで、
労働者は労働組合に結集して資本に反抗するようになるが、他方では、無気力化して勤労意
欲を失い、転々と職場をかえていく青年労働者がふえている。そのいずれも資本家の利潤追
求のためには防がなければならない。
そのための手段として、第一におこなわれているのが、HR(ヒューマン・リレーションズ
「人間関係管理」)といわれる方法である。HRには従業員を直接対象とする社内報、掲示板、
従業員ハンドブックなどの従業員PRや、職場懇談会、提案制度、従業員意見調査、人事相
談制度などから、家族をふくめてのHRとしての社内報の家庭への直送、工場見学、従業員
誕生祝い、運動会など、さらにまた地域住民を対象としたHRとしての奨学金の提供や会社
福祉施設の「開放」、地域自治体への会社代表の選出など、多くのやり方がある。
これらHRのねらいは、労働者の階級意識をぬきとり、「自発的」に資本に協力して働く
勤労意欲を高揚させることにある。この方向でのさいきんの攻撃の中心は、さきにもふれた
能力主義による目標管理のため、経営者側の組織する職場小集団による「参加意識」の高揚
と「自発的」労働強化をねらいとする諸制度である。「これが成功するか否かはネーミン
グ(名前のつけ方)による」などと資本家は言っているが、欠陥品を出さない品質管理(クオ
リティー・コントロール=QC)サークルとか無欠点(ゼロ・デフェクト=ZD)グループとかい
ったもっともらしいさまざまな名称をつけ、労働者に資本の側の本当のねらいをごまかして
いこうとしている。
労資協調の生産性運動と経営参加
HRによる労働者の骨ぬきとならんで、「労使協同意識」による組合
の丸がかえ骨抜きこそ、資本の「合理化」攻撃成功のための最大の重
点であるが、そのための手段は「労使協議制度」を利用し、スト権で
うらうちされた団体交渉の力を奪い、生産性成果配分制度などで労働者をつっていく生産性
向上運動の展開である。独占と政府はアメリカ独占体の援助をえて「日本生産性本部」を一
九五五年設立し、生産性向上運動をすすめてきた。六〇年の安保闘争を闘った日本の労働者
の闘いの高揚に脅威を感じた独占資本は、日本生産性本部を通じてアメリカに労働組合幹部
を送り、労資協調思想をうえつけようとした。経営者はこれとともにアメリカ式労務管理を
導入し、それを実践する作業長制度に示されるような職場機構をつくりあげ、資本の高度経
済成長政策に奉仕させようとしてきた。さらに「高度経済成長政策」の矛盾があらわになっ
てきた七〇年には、生産性向上運動の再強化をはかるために、生産性年間の設定など新たな
計画がすすめられている。
企業内福利厚生旋設や従業員持家制度などの一定の物質的条件を利用して、「福祉と参加
の社会」などという宣伝が行われているが、これは、国家独占資本主義の「勤労者財産形成
制度」などとむすびついて、労働者に小財産者意識をもたせ、労働者のあいだから階級的な
自覚と連帯をうすれさせ、労働組合を右傾化させると同時に、従業員の企業への定着率を高
め、低賃金で働かせようとする、二重、三重のねらいをもつものだといえる。
こうした労資協調をより大規模に総合的にすすめようとするのが、七四年春闘の前から日
経連がとなえた「全員経営」である。七五年春闘にむけては社会経済国民会議の「労働組合
もしくは労働者代表の経営参加問題について」の提言がなされ、いくつかの大企業がこれを
うけて監査役への組合代表参加などの実例をつくり、画期的な制度などと宣伝している。し
かし社会経済国民会議の提言の内容をみても、経営段階の参加では監査役などに組合代表が
入っても、職場段階の参加体制については、組合の職場組織ではなくて、能力主義管理の一
環としての職場小集団が中心とされているなどからも、そのねらいは明らかである。
7 「高度成長」政策の帰結と資本主義の危機の深まり
インフレの悪性化とドル危機 六〇年代の日本の経済成長は年率一〇%をこえる高度成長となり、生産
は資本主義世界の二位、三位をあらそうようになった。しかし、その結
果、社会の現実には、経済も政治も外交も生活もまた文化や道徳面まで
深刻な危機がひろがっている。
大企業本位の「高度成長」政策は、先にみたように、国のばく大な財政投融資や外資導入
・借款に依存した設備投資を推進したものだった。このインフレ政策、つまり、生産拡大を
はるかに上廻る過大な通貨増発による独占への資金供給は、通貨の過剰な流通をもたらし、
必然的に紙幣価値の下落をまねき、物価上昇を激しくした。
しかもそれは労働者、勤労国民の犠牲の上に強行されたものだから、個人消費の伸びは、
生産の伸びをはるかに下回り、生産と消費の矛盾は一層拡大せざるを得なかった。独占資本
は六〇年代末から急速な海外市場進出をはかることで、この危機を乗りこえようとした。し
かしこの方向は、ドル危機とドルを中心としてくみたてられた国際通貨・信用体制の動揺と
ニクソンの新経済政策によるドル防衛への協力の強要、円の事実上の大幅切り上げという七
一年秋以来のいわゆるドル・ショックで破綻した。円切り上げ、不況などの矛盾が拡大する
なかで、自民党政府は佐藤内閣から田中内閣へ移った。田中内閣は「日本列島改造計画」を
掲げて二兆三、四〇〇億円の史上空前の国債発行、公共料金の軒なみ値上げという超大型予
算(七三年)をくみ、国家独占資本主義の機構をフルにつかって資本の利益擁護を画策した。
こうして「過剰流動性」といわれる不換紙幣の過剰流通は一層はげしくなった。これらの
過剰な資金を手にした大商社、大企業は大銀行のバックアップをうけて、土地を初めあらゆ
る商品の買い占め投機、独占価格の一方的なつりあげなど、インフレを一層加速し不当なイ
ンフレ利得をめざして狂奔した。そこヘ七三年一〇月の中東戦争と、それを契機とするいわ
ゆる「石油危機」が追いうちをかけることとなった。それまでの高度成長の生産拡大を支え
ていたアメリカを中心とする国際独占体による中東石油の支配とその安価な利用という基礎
条件は七三年一〇月の中東戦争、原油供給制限と原油価格引き上げ(しかもそれは国際石油独
占の価格吊り上げで増幅された)によって大きく動揺した。つくられた石油危機に便乗した投
機行為は狂乱物価の様相を呈し、インフレは悪性化した。
深刻化する不況 この混乱のなかで独占は、インフレ抑制を理由に「総需要抑制」政策なるも
のを強行し、高度成長政策の破綻のもとで、独占の高利潤・高蓄積を維持す
る体制への再編成を画策した。しかし、この「総需要抑制」政策は深刻な不
況と失業増大をもたらし、政府統計でも失業者は百万人に達した。これまでの高度成長の過
程でつみ重ねられてきた生産と消費の矛盾が一挙に表面化し、七四〜七五年には日本の経済
は二〇年来なかった深刻な不況にみまわれたわけである。
独占資本はこのなかで集中化を大規模にすすめ、犠牲を労働者と勤労国民に転嫁して不況
を乗りきり、今後予想される「低成長経済」に対応して重点産業と経営体制の再編成をめざ
し、中小企業の整理陶汰、系列下請に対するしめつけを一層強め、人べらしと不安定・差別
雇用の拡大を含む企業の合理化を、極度にすすめようとしている。大量の失業者をつくり出
し、その過剰労働力の脅威のもとで所得政策=賃金抑制をねらい、それを裏うちするものと
して七四年末には先にのべた雇用保険法がつくられた。こうした合理化攻撃と同時に、これ
に対する労働者の反撃を分断し封ずるための労資協調体制と労働者と労働組合の権利への侵
害が、「経営参加」の欺瞞的なよそおいもとりながらすすめられているのが現状である。
世界資本主義の危機の深化
インフレと不況の並存、動揺をつづける国際通貨体制、エネルギー・資源
問題など、現在の日本の経済危機を特徴づけている要素は、資本主義諸国
に共通する問題である。そこには、戦後三十年を経過して、世界の資本主
義経済が、いちだんと危機を深めていることが示されている。「スタグフレーション」とよ
ばれるインフレーションと不況の並存は、インフレ政策で不況を克服しようとすれば物価暴
騰を招き、物価を抑えようと引き締め政策をとれば、過剰生産の矛盾が表面化し深刻な不況
につきあたるという状況に、資本主義経済がはまり込んだことを意味している。いいかえれ
ば、資本主義そのものの生産と消費の矛盾・過剰生産をいままでのようにインフレ政策で、
やわらげたり引きのばしたりすることが、しだいに難しくなってきたことを示している。
ドル危機、石油危機にはじまった国際通貨体制の動揺、エネルギー資源問題の深刻化は、
戦後の資本主義経済の発展を支えた二つの基礎条件、つまりアメリカのドルを基軸通貨とす
るIMF(国際通貨基金)体制と、国際独占体の植民地支配による安価なエネルギー・資源
の供給がくずれはじめたということである。日本の高度経済成長も、こうしたしくみの上に
可能になったのであって、先にみたとおり日本の経済にとりわけ鋭い矛盾が現われているの
は日本の高度経済成長がとりわけ深くドルと石油に依存して行われたからである。
見落とすことができないのは、こうした経済的危機の基礎には、南北べトナム人民の、民族
の独立と自由を求める闘い、世界の労働者階級を中心とする平和、民主勢力、社会主義諸国
の連帯した支援と闘いによる、アメリカ帝国主義のベトナムでの敗北に代表されるような
アメリカを中心とする資本主義世界体制の政治的な危機のふかまりがある、ということであ
る。今日の「危機」は、このように、資本主義の全般的危機が一段と深化したことを意味して
おり労働者や民主勢力にとっては、客観的にはますます有利な情勢になっているのである。
政治・経済の民主化の展望
このように独占資本と政府には、もはや、高度経済成長が内包していた矛
盾の爆発を解決する能力はない。国際的にみても各国の独占資本は、ひた
すら労働者と勤労国民に犠牲を押しつけ、搾取と圧迫を強めることでなん
とかこの危機を切り抜けようとしているが、これに対して、世界の労働者は不況とインフレ
から勤労国民の生活を防衛し、国の経済と政治を労働者と勤労国民の手にとりもどし、経済
を独占優先から国民生活優先に転換させることをめざして闘いに立ち上がっている。独占の
横暴を許さず、国の政治経済の民主化をめざすことで、今日の危機の深まりに対処しようと
するこの方向は、日本でも反独占国民春闘のスローガンに示されるように、七〇年代以降の
労働運動の展望となってきている。
【設 問】
l 独占資本はどのように、国の政治経済を支配し、法外な利潤をあげているか。
2 中小企業労働者の「二重の搾取」とはどういうことか。
3 「インフレーション政策」とはなにか。それはなぜ労働者のためにならないか。
4 「能力主義管理」は、将来に希望がもて、職場を明るくするものだろうか。
5 いま、日本の経済はどんな状態にあるか。それは労働者にはどういう意味をもつのだろうか。
目次 学習のはじめに
第一課
第二課
第三課
第四課
第五課
第六課
第七課
第八課
第九課
むすび
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