学習 の は じ め に
私たちの願いと現実
私たちはだれしも、豊かな人間らしい生活をしたいと願っている。しかし毎
日の生活には、いろいろと障害があって、思うようにはならない。願いと現
実のギャップから多くの不満が生じる。
ところで、日本の青年たちが生活の社会的場面でいだいている不満は、他国の青年たちと
比べてもずば抜けて高いという。総理府が七二年一〇、一一月に実施した世界青年意識調査
の結果をみると、社会生活に不満をいだいているものは、日本の場合十人中七人強、これに
対してアメリカでは二人半、イギリスが二人、西ドイツが三人半等々、となっている。その
内容をみると、「国が国民の福祉や権利を守っていない」「国は産業開発を優先しすぎて、
個人の生活を不幸にしている」などに批判が集中している。私たちにとってもっとも身近
な、職場生活についてみると、「収入がすくない」「休暇が十分でない」「単純な労働が多
く全身をぶっつけるにたりる仕事がすくない」「職場では自分の自由があまりなく機械の一
部のようになっている」などの不満が、やはり他国の青年より大きい。
その他にも多くの問題はあるだろうが、そのいずれもが、特定の職業や、個人だけのもの
ではなく、共通性をもっている。それは今日の日本の社会の、経済や政治のしくみと結びつ
いており、私たちが、企業に雇われて働き、賃金収入をえて生活しているという共通の事実
(労働者であるという事実)に根ざしている。だとすれば、これらの障害をとりのぞき、私た
ちの願いを実現するためには、この社会のしくみを知り、自分が労働者であるということの
意味を自覚することが、どうしても必要だといえるだろう。
拡大する貧富の差
現実のできごとを整理してみるだけで、私たちが暮しているこの社会の仕組み
のなかにある矛盾−不合理・不公正−を知ることはやさしい。一九五〇年代の
後半に始まる日本経済の「高度成長」は、一挙に日本をアメリカにつぎ、西ド
ィツと肩をならべる「経済大国」におしあげた。だが、年間十数バーセントを越える「奇跡
の経済成長」がもたらしたものはなんだったろうか。この経済発展を支えた勤労国民の間で
はそれとは裏はらに「去年より暮し向きが苦しくなった」という実感が増えつづけたので
ある。経済成長の成果を蓄積して、急膨張をとげたのは、少数の大企業だった。一九五六年
から七一年までの一五年間に、一○億円以上の巨大企業(金融保険業を除く)の資本金は一
二・五倍、内部留保と純利益の合計は一〇・七倍にふくれあがったが、この間労働者の実質
賃金は二・二倍に伸びたにすぎない。
実際に生産のための労働をし、社会の富をつくりだしてきた労働者は、職場における「合
理化」のなかで、労働強化や資本の専制支配の強化、単調労働によって苦しめられ、労働災
害、職業病などの増加で健康を破壊されている。そのうえ、高物価・重税などの影響と生活
様式の変化にみあわぬ賃金の低さや、そのための借金、家計の赤字増大、それをおぎなうた
めの残業や超過勤務、アルバイト、内職、バート・タイマーなどの形による一家総働きの増
加、および新しい形態での失業・半失業の存在などの生活不安の増大、さらには公害、住宅
難、通勤難などで苦しんでいる。
理論を学ぶ意味
こうした矛盾は七〇年代に入って爆発的に進行した。「経済(会社)が発展する
ことは自分自身の生活が豊かになるための前提である」という主張に対する批
判は、学校を出たばかりの若い仲間の間でも急増した。六九年から七四年のわ
ずか五年間に、経済(会社)の発展=生活向上論に対する賛成は七割から三割に激減、反対は
数パーセントから二割へ伸びた(日本生産性本部・日本経済青年協議会「働くことの意識調査」)。
経済(会社)の発展=生活向上という意見は、一見もっともにみえる。一家族の家計や二人の
青年が共同経営するスナックでは、家計がゆたかになれば子どものこづかいもふえ、スナッ
クの利益が伸びれば、二人の共同経営者はともに豊かになることができる。
だが、現実はこのようには進行しなかった。それが「高度経済成長」の帰結であった。こ
のことは、私たちが暮すこの社会が、根本において利害の対立する人々の集団に分裂してい
るという事実を、示唆するものといえるだろう。大企業と勤労国民、資本家階級と労働者階
級。こうした対立関係がどこから生じ、どんなしくみを形づくっているか−このことを、こ
の社会の基礎的なしくみに立入って学ぼうというのがこの教科書の一〜四課のテーマになっ
ている。そして、そのことが明らかになれば、労働組合が進むべき道についても、私たちは
ゆるぎない確信に近づくことができる。この点については第五課以降で学ぶことになる。
学ぶことと行動すること
労働組合はもとより教育・学習を主目的とする組織ではない。労働組合は、
いうまでもなく、労働者の現実の生活から出発し、その要求を団結して闘
うことによって解決する行動の組織である。労働組合の団結の根拠および
要求とそれを闘いとるための指針は、綱領、行動綱領、規約をもとに、年間の運動方針や時
々の決定として示される。それに対して、教科書では、前にのべたような一層基礎的な一般
的な問題を解明することが目的である。個々の具体的な行動の方針と教科書は綱領、規約と
いう共通の立場にたつものであるが、その果すべき役割には相違がある。教科書をもって個
々の具体的な方針とすることはできないし、その逆もまたなりたたない。大事なことは、教
科書を通じて基礎的な理論と知識を学ぶことによって、私たちは一層確信をもって個々の闘
いに参加することができるし、日々の闘いに積極的に参加することによって、教科書の理論
を身近なものとして学ぶことができるということである。
目次 学習のはじめに
第一課
第二課
第三課
第四課
第五課
第六課
第七課
第八課
第九課
むすび
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