K2 Expedition 1994

(7)帰りのキャラバン〜成田へ ◆8/17(水) BC→コンコルディア              アッという間に,帰りの朝が来てしまった。冷たい露空の下,凍り付いたテントをたたみパッキ  ング。ポーターへの荷物の割り振りに時間をとられ,慌ただしいキャラバンのスタート。天候は悪  く,K2の姿も無く,気分はブルー。一番最後になるのはいやなので,成田氏の前に出発するが,  途中で追い抜かれ,歩みの速いポーターにも抜かれてしまった。また,ポーター達になかなか追い  付けず,コンコルディアへの横断は,本当に迷子の一歩手前だった。ウルドカス隊の再現になって  しまうのではないかと不安の連続。それでも,氷河上のはるか彼方に,下っていくポーターの姿を  確認したとき救われたという思いがした。ここは,行きでもコックのアリに追い付けず,彷徨って  ブロードピークBCに到着した場所だから……。                      コンコルディアへ道は,果てしなく遠く,長く感じられた。雨の中,傘をさしたり畳んだり氷河  の隅を歩いたり,中央のモレーンの登り降りを繰り返したり,はたまた大きなクレバスを避けたり  と…変化に富んでいた。ポーターは速く,休憩や食事をする暇も無く,疲れた体を引きずって,漸  くコンコルディアへ辿り着いた。もう歩きたくなかったので,予定変更で今晩はコンコルディアに  泊まることが決まったときはホットした。   雨のコンコルディア。各国のトレッカーがポーターを連れて大名行列。個人用テントに3時のティ  ータイムで,お茶を配っている。イイナァと思っていると,自分たちのテントにもお茶が運ばれ,  久し振りにいい気持ち。食事も自分らのジャンパースに集まって食べるので,テントから一歩も出  ずに事が済んでしまう。只,トイレだけは外に出ないと用が済まない。近くには,綺麗な礫岩が転  がっていた。 ◆8/18(木)コンコルディア→ALI Camp                               今日は昨日の目的地アリキャンプまで。コンコルディアからは未知のルートの為,ポーターの後  を必死について行く。ガッシャーブルムへの氷河を少し進んで直ぐ右に曲がって細い氷河を登って  いく。3時間で峠のような少し小高いところに出るとそこがアリキャンプだった。氷河の左岸のモ  レーンの丘である。右手には池があり,そこの水をすくって飲み水とする。やや早く着いたので,  一寸した晴れ間を利用して濡れ物を乾かすが,アッというまに雪が舞ってくる。すぐテントに取り  込む。今日は短時間の行動だったが,明日は核心部のゴンドコロ峠越えで,長丁場。ポーターは,  アイゼンをどこからか出してくる。しかし紐が良くないからと言って新しい細引きを欲しがったり,  足が痛いの喉が痛いの目が痛いのと言っては薬欲しさにテントにやってくる。少し静かになったか  なと思いテントに入って夕食を待っていると,なんだか外が騒がしくなってくる。   そしてポーターが車座になって話が始まる。これはまずい。このパターンは,ポーターのストラ  イキの気配。ここまで何もなかったのでこれはいいポーター達だと言っていたが…。明日の長丁場  やルートの難しさから…賃金の値上げを要求してきそうだ。始まったら止まらない。どうなるかこ  とか,結末はサーダーの権限次第……。と思って静観していると,さすがはアリの連れてきたポー  ター達。何時の間にか騒ぎは収まった。   そして,明日先発に行くという若い者がルート工作のため2本のピッケルとアイスハーケン,ザ  イルが欲しいと言い用意する。また,戸高氏と大神田さんはきつい行程なのでもしかしたら峠の直  ぐそばでビバークになるかも知れないということになり2人に付き添うポーターを選んだり…。そ  のためのパッキングをやり直したり…やること一杯。   その夜,月が6000m級の鋭峰の肩から登り,とても幻想的なシーンを見せてくれた。写真を撮っ  ていると,若い青年が私の履いている軽登山靴を明日貸してくれ。アイゼンも無いのだ、と言い寄  ってきたが断った。そう,運動靴だけで氷のゴンドコロ峠を越えるポーターも多数いるのだ。峠を  越えると草原の広がるゴンドコロ峠とはどんな所なのか…大変興味深い。 ◆8/19(金)ALI Camp→ゴロン         長い一日の始まりは,2時起床。昨日のうちにチャパティーを戴いているので,ポットのチャイ  をコップに注ぐだけで用意ができ,アッと言う間に用意ができて直ぐ食べてしまう。テントもたたん  でパッキングするが,ポーター達はまだ動こうとはしない。それもその筈,ヘッドランプを持ってい  るのは先発のポーターのみ。この暗闇では慣れているとはいえ,いくらなんでも行動不可能。   3:30先発のスタート。ペースの遅い2人も出発する。私は最後のポーターを見届けてから出発しよ  うとするが一向に出発しない。   夜明け前の,4:00〜4:10の間に一斉に本隊の出発。足元が暗いがポーターはどんどん進む。こちら  はヘッドランプをつけながら遅れないようについて行く。5:00氷河の中央部に出て左に横断する。こ  こで先行していた戸高氏と大神田さんを抜く。6:00雪壁の下。アイゼンを持っているポーターはアイ  ゼンをつける。持ってないポーターは,先発が張ったフィックスロープをたどって登る。自分もアイ  ゼンを着けて登っていくがなかなか調子が出ない。かなり遅れてしまう。一旦平坦になってセラック  帯のようなところを通過すると,次はゴンドコロ峠に出る登り。上から2人を心配して付き添いのポ  ーターが降りてくる。そして7:40ようやくゴンドコロ峠に飛び出した。雪面にザックを置いてプルー  ンやイカを食べていると成田氏もやって来た。   振り返るとガッシャーブルム,ブロードピークK2などの山々が少しずつ顔を出してきた。なんと  いう素晴らしいパノラマ。これにはハッキリいって興奮。もうK2の姿は二度と見られないと思って  いたら,この展望。どこから見ても尖った三角錘の山。素晴らしい。遅れた2人もやって来て,ポー  ターと一緒に写真を撮る。   さんざんパノラマを楽しんだところで,何時の間にかポーター2人に戸高・大神田・成田・加藤の  6人パーティーができてしまい,一緒に下る。下りは雪が残っている急斜面で,落石の心配がある。  石を落とさないように慎重に下る。途中で休憩して服を脱ぎ軽くなる。また雪にコンデンスミルクを  かけて,かき氷を食べる。日本の春山や夏山気分。街のアイスクリームは危険で食べられないが,こ  の氷は大丈夫。たらふく食べる。   峠から2時間でハイキャンプというテント場に到着。ポーター用の石垣ができている。ここでまた  休憩。この下の緑の一帯には,前回来たときはチャイハナ(茶屋)があったというので,今回もきっ  と在るはずで……それでは成田氏がカレーをおごってくれるという事になり,楽しみに下る。ヒスパ  ーキャンプという緑の天地。ここでこれからゴンドコロ峠を越えK2BCに行くという日本人画家に  出会い話しをする。トレッカーのテントが散在する緑の別天地に到着する。チャイハナの建物はどこ  か…と探すが無い。3人はコッフェルを出し,お湯を沸かしていた。それからラーメンを作って久し  振りの日本食。1時間休んでまた氷河歩き。迷路のようなルートで,途中からはクレバスがズタズタ  に出来て直進を妨げる。ケルンを頼りに下るが見落としやすく,最後は大神田さんにアイゼンを着け  させ,下ってもらう。交信すると本隊はすでに今日の目的地,ゴロンに到着したという。   『加藤と成田はゴロンに来い』と言われ2人と別れる。ダルサンという牧草地に到着したのが17:16。  イブラヒムの弟がテントを張っていて,今夜は戸高氏と大神田さんがお世話になる手筈。私も成田氏  と一緒におじゃまする。チャイとコルバを戴く。コルバは半かけだったが腹にたまり旨かった。   30分休憩し,次に目指すはゴロン。氷河の合流地点を過ぎ,急な下降をして氷河の左岸を延々と  歩き,左斜面を登るようになると,突然河岸段丘のような平坦地が現れテント場のゴロンに到着。6:30  着。今夜がキャラバン最後の夜なので,ポーター達も陽気に歌っていた。私は本当に疲れて直ぐ眠り  に就く。 ◆8/20(土)ゴロン→フーシェ村         5:30起床。6:45出発。キャラバン最終日。今日は桃源郷:フーシェ村までの道程。わりと近そうな  だがそうでもないという。どんな所なのかとても楽しみ。   テント場から氷河に沿って下ると一本の川を徒渉する。尚も小さな流れに沿って下ると尾根道にな  る。そこを下って行くとルートを間違えたといって,鈴木・村上が戻ってくる。小さな流れも何時の  間にか大きくなり,またもや徒渉。そしてまた尾根道を下っていくと,終点に放牧小屋があり赤い旗  がひらめいている。『これはもしや』と思うが無人の小屋。あ〜あと溜め息をつき,先に進むと今度  は正真正銘のチャイハナ。サイシチョーであった。   ここで2か月ぶりのコーラを飲み,カレーを食べる。2時間休んで次はフーシェ。しかしこれが長  かった。川に沿って歩くのだが,銀ギラギンの日光を浴びて…暑い。所々に水は流れているが…余り  信用出来ない。上部は放牧地が多い。   はるか前方の台地に人工物らしき物が見え,あれがフーシェかと思って,頑張って進む。手前にも  村があり,畑で子供やお母さんたちが農作業をしていた。男の気配はない。坂を登りきると集落が広  がった。子供が来たので初めてキャンディーをあげる。それから賑やかそうな所へ向かうと,イブラ  ハムが経営する『K2ショップ』の店の前。早速,コーラを御馳走になる。他のみんなは反対側の  『K6K7キャンピングプレイス』という空き地に荷物を下ろし休んでいた。14:05 到着。   それからジープが来るのを待つが来ない。イブラヒムがお茶を御馳走するという。立派な家に招待  され,お茶や珈琲,ビスケットを戴く。いろいろな隊にコックとしてついていったので経験豊富。仲  間も沢山いるらしい。写真が沢山ある。また『K2』という映画にも出演したとかで…映画のパンフ  レットも有った。かなり長いことおじゃましたが一向にジープの迎えが来ない。そして今夜はフーシ  ェ泊まりとなる。近くのレストランはもう締まるといって,夕飯はビスケットなどをかじって戸高・  北村・女性隊員はイブラヒムの家に厄介になる。他の隊員は,荷物のそばにテントを張って,またも  やラーメンなどを作って食べる。月を見ながら寝る。                 ◆8/21(日) フーシェ村→スカルド           7時出発。結局予約したジープは来ないのでたまたま止まっていたジープを1台たのんで,下の街  に行ってもっとジープを連れてこようということになった。先発のジープには隊長,松井・北村・大  神田・加藤・アリが乗り込み,まずはアリの村:カンデに行く。8時着。その道すがら通りすがった    ジープを1台とトラクターを雇いフーシェに向かわせる。   自分らはアリの歓待を受け,アプリコット,チャイ,グリーンティー,鳥肉,牛肉,卵,シシカバ  ブーなどなどの豪華な御馳走を戴く。2時間後,記念撮影をし,水が豊かに流れ緑の美しい村カンデ  を去る。そして7時間後の 16:50なつかしのK2モーテルに到着。   その後,後発隊はわりと早く到着したが,ひとり成田氏は荷物と共にトラクターで12時間の旅を  してきた。(翌朝到着)              ◆8/22(月) フーシェ村→スカルド   5時に成田氏が到着して荷物を下ろす。飛行機は飛びそうもなく,バスを探しに隊長は街に出る。  その後午後6時,またもや24時間のバスの旅が始まった。行きと同じくバスはビンビン飛ばし,  スピードを落とすということを知らない。足や肋骨の痛い病人のことは露知らず,ガタンバタンと  バウンドしながらみんな横になっている。                      ◆8/23(火) →ラワルピィンディー             午後6時30分,なつかしのシルクロードに到着するが満員。荷物を下ろして,ピィンディーの  『フラッシュマンズホテル』に行く。そして,やっとベッドに横になる。夜食は,近くの中華料理  屋に行くが,変なものばかり食べさせられた。                   ◆8/24(水) ラワルピィンディー←→イスラマバード   10:40 発。シルクロードに行き,デポ品や輸送品の乾燥とパッキング。天気が悪く手間取るがな  んとか終える。今年からパッキングにはシリンダーコンテナを使用する。リ・ブリーフィングは,  LOのエバースが書類を揃えてきたので簡単に終わる。19:40 フラッシュマン着。  ◆8/25(木) ラワルピィンディー←→イスラマバード   朝食を近くのチャイハナに行って食べる。8:30発。シルクロードに行き,今日は個人装備の乾燥  とパッキング。また外人登録をするが,すんでの所でセーフ。全員同じ飛行機で変えることができ  る。17:30 着。夜は,パールコンチネンタルホテルに行きバイキング。旨かった。  ◆8/26(金) ラワルピィンディー←→イスラマバード   仕事を終えたので,今日と明日は買い物ツアー。フライディーマーケットというアフガン難民用  のフリーマーケットが開かれるというので行ってみる。食料と日曜雑貨の店が二百軒ほど並ぶ。御  土産をいろいろ買う。 ◆8/27(土) ラワルピィンディー←→イスラマバード   今日も一日買い物。お世話になった学校の先生方への御土産に苦慮する。やっと品を見付けて  なんとか間に合わせる。しかし土産だけで百リットルのザックが一杯になる。 ◆8/28(日) ラワルピィンディー→イスラマバード→成田→松井宅      とうとう日本に帰国。23時過ぎの到着で,家に変える交通手段は無い。松井宅にお世話になる。
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